そうだ、胃に優しい料理をつくろう
秋の野菜は比較的豊富だ。そんな旬の野菜を干して乾燥野菜をつくると、保存食も増えてお得な感じがする。
春陽さんは既に正月のおせちのリメイクレシピの写真を撮っていて、季節感無茶苦茶と笑っていたら、春陽さんは「またですか」とレシピを書いているのを目にした。
「今度はどんな仕事?」
「正月明けの簡単レシピってお題ですねえ……おせち料理のリメイクは提出しましたし、それはそのまんま通ると思いますけど」
黒豆のパウンドケーキに、栗きんとんのパフェ。なますは生ハムと一緒にくるんで食べるとちょっとおしゃれなお酒のあてになる。どれもかなりおいしくて、夢中で食べてしまった。それで、正月明けの簡単レシピなんだ。
たしかにもう正月明けは、あんまりがっつりと料理したくないから、わずかな食材で楽して食べたいと思う。
「でもおせちは既にリメイクしてしまったし、通常料理にしても、せいぜい一品で満腹になるもののような……だって、三が日にそんなにおいしい食材は売ってないし」
最近は長期休みを無視して春夏秋冬いつでもスーパーは開いているけれど、年末年始とお盆のシーズンはどうしても野菜は根野菜以外はそこまで新鮮じゃない上に高い。だとしたら缶詰中心のレシピになるのかな。
それ以外だったら干したものとかかな。春陽さんもかなり迷っているようだ。
「この時期、どこの家庭でも必ずあるものじゃなかったら、意味ないですよねえ……それで簡単っていうと、もうお手上げというか」
「たしかに。あとはカレー……っていうか、三が日で暴飲暴食したあとにカレーって、スパイスでお腹にとどめ刺してない?」
「たしかに。この時期に食べるのはきついと思います。でもそっかあ。簡単でなおかつ胃に優しいものですよねえ……本当に難しいです」
「それこそ、七草粥って馬鹿にされがちだけれど、あれほど暴飲暴食で荒れた胃に優しい料理はないというか」
「んんんんんん……そうだ、それで行けばいいですかね」
春陽さんはなにか納得したように、ノートパソコンをカタカタと叩きはじめた。なんだろう。なにかいい料理を思いついたのかな。
****
その日の夜は春陽さんの当番で、私が仕事から降りてきたら、彼女の正月明け用レシピと兼任した料理が出ていた。
出ていたのは炊飯器のご飯に、平べったい餅みたいなもの、そして大根と鶏団子のごま汁だった。私は平べったい餅をお箸で摘まんで首を捻った。
「これなに? お餅って胃に優しくないって聞いたことあるけど」
「ああ、これ大根餅ですよ」
「大根餅」
飲茶とかで出てくる奴だったっけ。私はお箸の感触にひたすら首を捻っていた。大根おろしのような食感もだけれど、大根の食感がない。ふにふにもちもちとしている。
「大根をひたすら降ろして、片栗粉を混ぜて捏ねただけですよ。味付けはお好みですけど、今回は甘辛く醤油と砂糖で味付けしました」
「へえ……思っているより簡単そう? いや、そうでもないか。ごま汁もつくらないとだし」
「こっちはもっと簡単ですよ。水から出汁パックと一緒に大根を煮て、そこに鶏団子を落としてすりごまと味噌で味付けしただけですから」
「いやいや、充分手間暇かかってるよね!? たしかに日頃の晩ご飯を思えばかなり楽とは思うけど。でも大根尽くしなんだね」
「はい。年末年始でも手に入りやすくって、比較的長持ちするとなったら、大根くらいだなあと。胃に優しい料理だったら、他にはキャベツがありますけど、葉物はとにかく傷みやすいですから、年末年始のレシピには載せられないです」
たしかに。その上葉物は年末年始ひたすら高くなるから、そんなのほいほいと本に載せられないか。
大根餅を食べてみると、たしかにもっちりとした食感でおいしいけれど、普段の餅ほどの食べ応えよりも後を引かない感じがする。大根の食感って替えられるんだなあという感じ。
「おいしいです」
「よかったぁ……大根レシピでひたすら攻めてみますね」
「はい」
鶏団子つくるための鶏ひき肉は、本当だったら年末年始のレシピに使うのは微妙なんだけれど、年末年始の鍋の始末だって思うと考えられている。ひき肉はさっさと使うに限るしなあ。
大根がおいしくなったのを見ると、気付けば冬の足音が近付いているんだなと思いを馳せる。思えば春陽さんとの付き合いも、かなり長くなったもんだ。
「そういえば、春陽さんは年末年始はご予定ありますか?」
「わたしですか? 大きなものはないですねえ。美奈穂さんは?」
「私も特にないかな。じゃあ年末年始はこの辺りの店も閉まるだろうし、買い出ししてから家に引きこもろうか」
「いいじゃないですか。だらだら駅伝を見ながら過ごす年末年始って」
「まあたしかに。どこで応援すればいいのかタイミングにものすごく迷うけど」
「たしかに」
ふたりでそんなことを言い合いながら、冬の予定に思いを馳せた。
思えばこれだけストレスフリーは冬ごもりは、初めてかもしれない。
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