第12話 天国か地獄か!?龍星軍のバカンス!!~前編~ (12)






モヤモヤしたけど、すぐに気持ちを切り替えてもぐる。


泳ぎは得意な方だったので、すいすい進んだ。






(ピンクのハイビスカス!ピンクのハイビスカス!!)






天気が悪くなったせいか、濁り始めた水を必死にかきわける。






(お願い!!見つかって!)






バシッ!!



「ゴボ!?」


(痛い!?)







なにかが私の鼻に当たる。


目に映ったのは小さな足。


続けざま、ピンクのハイビスカス柄の生地が見えた。







「がぼ!!」


(この子だ!!)







足をつかみそのまま素早く抱き寄せる。


目を閉じていたが、口から泡が出ていた。


直感で助かると思った。


抱きしめて、体の向きを変え、大急ぎで浮上する。


流れがきつかったが、必死で上を目指した。







ザッバン!






「ぶはっ!!」





水面に顔を出して、ギョッとする。






「なにここ!?」






浜からかなり離れた場所にいた。






「大変・・・・!」





流されたんだと理解する。


同時に、腕の中の子供はぐったりしていることに気づく。







「起きて!しっかりして!しっかり!」







横泳ぎしながら、悪いとは思ったけど、女の子の頬を叩く。


それに女の子は反応しない。






(ここじゃ人工呼吸もできないし――――――)






「とにかく気道を確保して!!」






それでもって、やることは一つ!!







「誰か助けてぇぇぇぇ!!!」







泳ぎながら大声で叫ぶ。







「おぼれた子はここですっ!!!助けて下さーい!!」







人だかりのしている方に向かって叫べば、そのうちの1人が指さす。







「凛っ!!」








呼ばれた気がした。


それで数人が、海に飛び込んだんだが――――――――







グイッ!!



「えっ!?」








体が水中に沈む。


沈むというよりも――――――――







(引っ張られてる!?)







片足に感じる違和感。


捕まれている感覚。


一瞬のうちに、水難事故で死んだ人が、仲間を求めて足を引っ張るという怪談話が頭に浮かんで消える。


だけどすぐに我に返る。







「わ、渡すもんか!!」



ザバン!








両手で、女の子をかかげる。


水面から持ち上げた。






(この子だけでも助けないと・・・・!)







ひっぱられてると言っても、単に海藻かゴミが足に絡まってるだけかも―――――――!!







そんな思いで、自由がきかない足を必死で動かす。


上下左右に動かして、振りほどこうとしてみたのだが・・・・








―――――グイグイ!!



「わぁあ!?」










(離れないっ!!?)






それどころか、反対側の足も引っ張られる。


両足の自由を奪われる。







(ち、違う!これ絶対、海藻とか、ゴミが引っ掛かってるんじゃ――――――)







海面を出たり入ったしている顔を、海中へと向ける。






ザブン!!







そこで見たのは―――――――








(ひっ!?人の手!?)








両手が、私の両足に絡みついていた。


薄汚れた海底から、私を引っ張っている。








「ぶっは!い、いやああ!瑞希お兄ちゃ―――――――――!!」






グイグイグイ!!




「お兄・・・!?ガボガボ!!」





ザッバーン!!









今までで、一番強い力が私を引っ張る。


海中に引き込まれた。








「ゴボゴボゴボ!!?」




(く、苦しい・・・・!!)








額どころか、頭まで、完全に海の中に沈む。






いや、死にたくないけど――――――!!





(子供だけは助けないと・・・・!!)





つかまれた両足をばたつかせながら、必死で両手を天にかかげる。


しっかりと子供を海面の上へと上げ続けた。


でも。








「ゴボゴボ!」


(もう・・・だめ・・・息が・・・・!!)



続かないよぉ・・・・!






海面に肘まで出ていた手が、手首まで沈む。








(神様助けて・・・!助けて、瑞希お兄ちゃん・・・・!!)


「み、ずき、お兄ちゃん・・・・・!!」








体の力が抜けていくのを感じた時だった。







ドッ!ドッ!




「ゴボっ!?」







突然、体に衝撃が走る。


同時に、両足が自由になる。









(な、に・・・・?)






何が起きたの?








そう思った瞬間、汚れて見えない視界がゆれる。







ガシッ!



(えっ!?)







真横から手が出てきた。








(さっきの手が移動した!?)






恐怖で強張る身体。


その身が横へと引っ張られる。





グイ!!



「ガボ!?」






横に移動しかけたが、再び体が下へと沈む。


きつく足首をつかまれた感覚。


視線を下げれば、右足をつかむ手があった。





(ど、どういうこと!?お化けはたくさんいるの!?みんなで、私を引きずり込む気!?)






そう思って、パニックになりかけたんだけど。







ゲシッ!!



(え!?)






足が出てきた。


私の右足をつかむ手を、右足らしいものが蹴り飛ばした。


それで、私を掴んでいた手が離れた。






(まさか・・・・・!?追い払ってくれた!?)






ゲシゲシ!!








海底の手に、数発蹴りを入れているのがぼんやりと見えた。


それで、私を連れて行こうとした手は泥と一緒に見えなくなる。







(助けてくれた・・・・・!?)






グイッ!






そう思ったら、背後から抱き寄せられる。


濁った海水で見えないけど、そのまま引き寄せられた。


同時に、両手の主と、私を守ってくれた足が同じ人のものだとわかる。





(に、人間なの・・・・!?)



生きてる人?






そう疑問に思った時、口に何かが当たる。







「うぐ!?かは!?」







新鮮な空気が口に、肺に入る。







「ゴホゴホ!!はあー!はあー!はあー・・・」







その空気を逃さまいと深呼吸する。


顔を見たかったけど、暴れた衝撃でゴーグルに水が入ってうまく見えない。


でも、脈打つ鼓動と、温かさから、生者であるとわかった。。


そんな誰ともわからない人が、私の体を支える。


その人が、酸素ボンベを私の口に含ませてくれていたのだ。





(呼吸が、楽になる・・・・)







ぼんやりする意識の中、体が浮上する。


手首まで沈んでいた身体が、肘まで海面に出る。


同時に、女の子を掲げていた両手が軽くなる。





(あ・・・・・?)






それで力の抜けた私の両手が、体が海の中に沈む。


海底に沈んでいくかと思えたけど・・・・






ガシッ!!



(ああ・・・・)






グッと強く抱かれる。


そして何者かによって、お姫様抱っこの状態で海面へと導かれる。


体が浮上する。


海面から顔を出せば、酸素ボンベが口から外された。


続けざま、大声の会話が聞こえてきた。







「女の子は無事だ!」


「早く蘇生措置を!」


「もう大丈夫だぞ!!」






自力で呼吸できるようになった私の耳に、そんな声が響き渡る。


安堵と、緊迫感が渦巻く現場。







(助かったの、私・・・・・?)



「無茶するなよ。」






耳元でささやかれる。


優しくも、呆れる声で言われる。


その口調と、優しい抱かれ方に覚えがあった。






(瑞希お兄ちゃん・・・・?)






彼しかいない。


私を追って追いかけてきてくれたんだね?


海のお化けから守ってくれたんだね?


しかも、海中でお姫様抱っこなんて、なんて、ロマンチックで、ご褒美を下さるなんて・・・・♪






「おい、そっちの少年は大丈夫か!?」


「早くこっちの船へ――――――!」







そんなやり取りが聞こえた気がした。


それを最後に、私は気を失った。






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