第5話 天国か地獄か!?龍星軍のバカンス!!~前編~ (5)






(・・・・・・いくら冷静さを失ったとはいえ、30分も締め上げちゃって、悪いことしちゃったなぁ~)




その時のことを回想して反省する。


ヤマトへのお土産、奮発しよう。





「どうした凛!?急に、シリアスな顔しやがってよぉ~?」


「え!?い、いいえ!なんでもないです、瑞希お兄ちゃん!」





バイクのミラー越しで心配してくれる人に、左右に首を振りながら答える。






「もしかして、海、嫌だったか・・・・?」


「な!?違います!僕はただ!」


「なんだ?」


「え、えーと~海の家で何を食べようかと思って、悩んでいただけでして・・・!」


「え!?腹減ってるのか、凛!?」


「そ、そんな大げさなほどじゃないですよ~ただ、軽く何か食べたいなぁーと!」


「なんだよ~それなら、そうと言えよ!」






ホッとしたような、さわやかな笑顔で好きな人は言う。






「そんじゃあ、凛のためにもフルスロットで飛ばすかぁー!?」


「わはははは!競争か、瑞希!?」


「お♪久々に良いねぇ~」


「せったくだしぃ~負けた人のおごりねん♪」


「俺は海鮮丼でいいぞ。重り付きの瑞希。」


「誰が漬物石だ!?最下位だ伊織!?凛、しっかり体に捕まってろ!ガチで飛ばす!!」


「つかまっ・・・!?もちろんです!!」






獅子島さんのおかげで、合法的にギュッと瑞希お兄ちゃんの体にしがみつけた。






「あーん、そうやって凛ちゃんとイチャつくしぃ~」


「いつものことだろう。」


「ということで勝負と行こうか。」


「レディ・・・・・・・GO―――――――――――!!」


「わはははははは!!」






烈司さんの合図で、各自のバイクのエンジン音が上昇する。


道路いっぱいで平行に並び、一般車から見れば、ご迷惑な走行。


プロのバイクレース顔負けの加速で海へと向かう。






(ああ~瑞希お兄ちゃんに密着できて幸せ♪)






なかなか、ラブストーリーのような展開がなかったけど、これで希望が見えてきた。


テンション上昇で、そっと彼の背中に頬ずりしたのだった。




〔★凛はちゃっかりしている★〕





瑞希お兄ちゃん達とやってきたのは、海に囲まれたリゾート地。


宿泊先となる宿は、温泉が評判だという高級旅館。


咲耶庵(さくやあん)という数百年の歴史を持つ宿だった。




「いらっしゃいませ、獅子島様。」


「「「「「ようこそいらっしゃいました。」」」」」


「ああ、久しぶりだね、女将。みんなも息災か?」


「はい、おかげ様で。」






(・・・すごい・・・・)






左右両側から着物姿のスタッフさんから、いっせいに頭を下げられる。


デパートや百貨店の開店時の店員さんよりも、迫力のあるお出迎えだった。


なによりも、彼女達を従えている山吹色の着物を着た中年女性は・・・絶対偉い人だと思った。






「瑞希お兄ちゃん、なんか、すごいんですけど・・・・!」


「まぁ、伊織がらみだからな。そのうち凛も慣れるって。」


(時間がかかりそうだわ・・・・)






そんな思いで、女将さんと話し込んでいる獅子島さんを見ていたら、彼が話して言える相手と目があった。






「これはこれは、はじめてお目にかかりますね?咲耶庵(さくやあん)の女将の和島でございます。」


「え!?あ、は、はじめまして!いつも、獅子島さんがお世話になってます!」


「大きなお世話だ、凛道。」


「獅子島様、こちらは?」


「ああ。凛道蓮といってな、瑞希の弟だ。」



(え?)



「まあ、真田様の?」






獅子島さんのリップサービスに、女将さんがまじまじと私を見る。


それで慌てて、獅子島さんの方へ移動した。






「ちょ、だめですよ!苗字も違うのに、そういうウソはー」


「ウソではない。」






小声で話しかければ、変わらぬ口調で獅子島さんは言った。






「瑞希が弟というのだから、お前は弟だ、ブラコン。」


「ブラコンって!?」


「そういうわけで女将、細かいことは気にしないでやってくれ。」


「・・・なにかご事情がおありのようですね。かしこまりました。」


「かしこまらないでください!」






良いところの旅館の女将さんだけあって、対応が早い。


ただ、その対応と、意味を、どう理解したか、考えただけで怖い。


絶対、ややこしい誤解してる




〔★凛は今までの経験で理解した★〕




「それでは、お荷物をお部屋にお持ちしますね?」


「はいはーい♪凛ちゃんは、モニカちゃんと同じにしてね~女将さん!」


「馬鹿野郎!お前と凛を一緒に出来るか、ケダモノが!凛、お兄ちゃんと一緒がいいよな!?」


「瑞希~独り占めは良くないぞー?凛たん、烈司さんと男同士で語り合いたいよなぁ~?」


「わははははは!イイDVD持ってきてやったから、鑑賞会しようぜ~!凛助!!」


「案ずるな。お前らがそう言うと思って、俺と凛道は同じ部屋にしておいた。」



「ええー!?」


「「「「なにしてんだよっ!!?」」」」


(へ、部屋割り、決めてなかったの~!?)




〔★むしろ決められている★〕




個人的には、瑞希お兄ちゃんがいいけど~






「凛!お兄ちゃんがいいよな!?」


「凛たん、烈司さんは凛たんのために、いろいろ頑張ってきたよねぇ~?」


「だったらモニカちゃんだって、尽くしてきてるじゃないの!?」


「騒ぐな貴様ら。他の泊り客と女将と従業員に迷惑だ。俺でいいな、凛道?」


「凛助ぇ~・・・!!俺様を選ばなかったらどうなるかわかるよなぁ~!!?」


「う、うわーん!」




(素直に瑞希お兄ちゃんがいいと言えないよーん!!)




〔★圧力が半端ない★〕





「獅子島様!それに皆様もおやめください!凛道様が怖がってるじゃないですか?」


「わーん、女将さーん!」






助けてくれそうな人がいたので、荷物を放置してその背後に逃げこむ。






「ああ、よしよし、かわいそうに。」


「女将!我が家のことに口出しをされては困るぞ!?」


「凛ちゃん、モニカちゃん、怖くないよぉ~帰っておいでぇ~」


「わはははは!熟女の色気たっぷりの女将に泣きつくとは~好きもんだなぁ~凛助ぇ~!?」


「凛をテメーと一緒にするな、ボケ!り、凛、悪かった!喧嘩しねぇから・・・なぁ?」


「そうそう・・・しゃーねぇーからここは、平和的に凛たんの希望を優先しますか?」


「ぼ、僕の希望?」



「瑞希が良いんだろう?」


「っ!?」






烈司さんの言葉に顔が熱くなる。


図星と、罪悪感と、胸の高鳴りが混ざり合う。






「烈司。」


「譲ってやるよ、瑞希。じゃんけんやくじびきだと、俺にしかならないからなぁ~?」



「れ、烈司さん・・・・!」




(なんて良い人なの・・・!!)






そんな私の気持ちが顔に出ていたのかもしれない。






「そ、それなら、モニカちゃんだってみーちゃんに譲るわよ!善意だからね、善意!」





何かに気づいたように、モニカちゃんが叫ぶ。





「チッ!・・・女将、部屋割りは変更だ。瑞希と凛道を一緒にしてくれ。これも善意だ。」





続けざまに、いまいましそうに、獅子島さんが言う。





「わははははは!」






最後に百鬼が笑ってしめる。






「その代わり、2人きりにならないように邪魔しに行くからなぁ~・・・!?俺様からの善意・・・!!」


「あなただけは絶対違うでしょう、百鬼さーん!!」




〔★そういう顔をしている★〕






こうして、私と瑞希お兄ちゃんは同じ部屋になれた。






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