第4話 天国か地獄か!?龍星軍のバカンス!!~前編~ (4)








(あれから13回・・・・烈司さんが止めるまで、両頬に交互にチューしてくれたのよね・・・)







甘い記憶を思い出し、シルキロールで隠した口元がゆるむ。






「凛、楽しみだなぁ~海♪」


「はい!楽しみです♪」


「着いたら、即、泳ごうな~♪浮き輪で浮くのもいいかもなぁ~♪」


「はい!泳ぐのも、浮くのも~」




“あかんで!!”





浮かれかけた私の頭に、奴の顔と声が響く。







“わかってるとは思うが、あかんで、凛!?”



(・・・・・わかってるよ・・・・)






思い出したのは、甘い記憶だけじゃなかった。









瑞希お兄ちゃんからの旅行のお誘いがあった日、私は真っ先に自慢した。





「瑞希はんと海ぃ~!?」


「えへへへ~そうなんですよ!」






クーラーの利いた部屋で、グラサンとカチューシャをしている友達に話した。






「ヤマトにも、お土産買ってきてあげますからね!」


「うはははは!わしゃぁ、凛の土産話の方が気になるわ~!」




私の言葉に、ゲラゲラ笑いながら答えるのが、五十嵐(ごじゅうあらし)ヤマト。


凛道蓮の正体を知る、唯一の親友でもあります。






「ほれ、飲み物!部屋の温度これぐらいでええか?」


「うん、ありがとう、ヤマト。」






学校が夏休みということもあり、ヤマトの家まで遊びに来ていました。


彼は一人暮らしなので、誰かを気にすることなく楽に話せます。


ただし、いわくつきの部屋なので、生きてる人間以外もいそうですが・・・・






「うはははは!しっかし、瑞希はんらと旅行かいなぁ~自分、家族にはどないゆーねん?」


「友達の家に勉強のお泊り会すると。」


「はぁ~菅原凛なら、『お勉強』のキーワードさえ言えば、何でも自由になんねんなぁー?」


「・・・・・・・まぁね。」





そう、龍星軍4代目総長・凛道蓮というのは仮の姿。


私の本当の正体は――――――――――






(あゆみが丘学園高等部1年B組所属のいじめられっ子・菅原凛、15歳よ!)





〔★むなしい解説だ★〕




「うははは~ほんまもんの姿の方が地味って、どないやろなぁー?」


「大きなお世話ですよ。」





自分でもそう思ってますっての!!




〔★自覚はしていた★〕






(とにかく!この旅行をきっかけに、瑞希お兄ちゃんと急接近して、ラブラブになる!!)







気合を入れている私に、ヤマトがいつもの調子で言ってきた。






「で?どないするんや?」


「え?」


「誘われたんはわかったけど、なんちゅーて断るんや?」


「断る!?」


「うはははは!またそうやって、とぼけてぇ~!ぶっちゃけ、行かへんのんやろう?」


「なに言ってんの!?」





このLOVEチャンスを冗談!?


馬鹿じゃないの!?






「行くに決まってるじゃないですか!?何でキャンセルしなきゃダメなんですか!?」


「何でって~」






怒る私に、眉をハの字にしたヤマトが言った。






「自分、男の子設定やけど、女の子やん?」


「それがなにか?」


「水着、どないすんねん?」


「え?」




水着?




「あのメンツで、凛1人だけ、海に入らへんわけにはいかんやろう?女の子の日を理由に断れば、それこそ女子やってバレるやんけ?」


「あぁああああああ!?」




(忘れてた!!)




バカなのは、私の方だった!?




〔★一番忘れてはいけないことだ★〕




言われて思い出した衝撃の事実。


一気に体中の血の気が引く。


叫ぶ。






「忘れてた!瑞希お兄ちゃんとのお泊りに気を取られ、忘れてましたよぉ~!!」


「うはははは!なんや、なんや?旅行に浮かれて忘れとったんかいなぁ~?」


「忘れてた!てか、抜け落ちてた!!」


「ぶっ!うははははははは!!そりゃあ~抜けとるのぉ~!わしゃてっきり、前みたいに、瑞希お兄ちゃんと入る気やったんかと思うたでー♪」


「なっ!?」


「おっ!リンゴアメみたいになってるでぇ~!?さては想像したんやなぁ~?すっけべぇー!」


「あんだとコラ!?入るかボケ!!」




〔★現実では入っている★〕





「でも、どうしよう!旅行には行きたいけど、海に入らないのは不自然だし・・・」


「山に変えてもらったらええんちゃうん?」


「瑞希お兄ちゃんは海に行きたがっているんですよ!?好きな人の要望に応えるのが、好感度アップの条件でしょう!?」


「せやけど、それで女の子ってバレて、自分はかまへんのかー?」


「かまうね!ダメだね!」




ということは・・・・・







「・・・・・・・あきらめるしかないの・・・・・?」






瑞希お兄ちゃんとの旅行。


好きな人との、初めてのお泊り旅行。






「あかんで!!」






情けなくつぶやいた瞬間、怒鳴られた。






「キャンセルするのはあかんで、凛!」


「ヤマト・・・・」


「このタイミングでバレちゃあかんと、わかってるとは思うが、あかんで、凛!?恋は、常に粘ったもん勝ちや!」


「ヤマト。」


「まぁ、わしは前回粘ってあかんかったけど、凛はあきらめたらあかん!凛みたいなええ子、幸せにならにゃあかんで!?」


「ヤマト・・・さっきと言ってること違わない・・・?」


「思春期はいろいろあるねん!ほなしゃーない!『あの手』で行こうや!」


「あの手?」


「せや!女の子やとバレないで、瑞希はんらと海に入れる方法やぁ~!」


「なにっ!!?そんな方法あるの!?」



グワッシッ!!


「がは!?」






思わず胸ぐらをつかめば、ヤマトの首が変な音を出す。






「ど、どーすればいいの!?どうすれば、バレないの!?ねぇ!?」


「ちょ、あかんあかん!苦し・・・!」


「どうすれば、瑞希お兄ちゃんの生の水着姿を間近で見られるの!?ねぇ!?」


「ちょ、思考が思春期男子になっとるけど、ええんかい・・・!?」


「いいから!どうすればいいのぉ~!?瑞希お兄ちゃんとお泊りしたいんですよぉ~!!」


「わしは、首絞めをやめてほしぃい~~~~~!!」






その後私が、ヤマトから『思春期男子が思いつく方法』を聞きだしたのは30分後のことだった。








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