第3話 お飾りの聖女様
普段は聖女のイメージを壊さないように心掛けているセレスティーネだが、こうして気安く声をかけてくれるラインハルトの前でだけ、つい本音をもらしてしまう。
「大聖女様も大変だな」
「私の魔法なんて、ちょっと周囲が明るくなるだけなのに。あんなに有り難がって貰うと申し訳なくって……」
「まぁ、皆喜んでるからいいんじゃねーの?」
セレスティーネはもともとさほど豊かではない子爵家の娘として生を受けた。しかし、小さい頃に珍しい光属性の魔力を発現したせいで、あれよあれよと言う間に聖女として祭り上げられてしまったのだ。
使える魔法と言えば、周囲を照らすだけの魔法で、実際何の役に立つのかも良く分からない。鉱山にでも行けば明るくなって便利かもしれないが、それほど長時間光を出し続けられるわけでもない。
こうして結婚式の余興となるのがせいぜいの力なのだ。
本人はさして力もない自分が大聖女として扱われることにプレッシャーを感じているが、セレスティーネの人気は留まるところを知らない。
民からの支持に加え貴族からの人気も高い。セレスティーネからの祝福は大変縁起が良いとされており、結婚式などのお祝い事には引っ張りだこの存在なのだ。財政難に苦しむ教会にとっては金の成る木であり、国にとってはいい広告塔となっている。
「お前も苦労するよなぁ」
優しく頭を撫でられ、じわりと涙が滲む。
「私にもハルみたいに強い魔力があったらなぁ……」
伯爵家嫡男のラインハルトは、領地が隣同士ということもあり、セレスティーネとは幼馴染の関係だ。同じく幼いころに強い魔力を発現して聖騎士に任命され、いまや国一番の勇者として名を馳せている。
大聖女として任命されたあとも変わらず気さくに接してくれるラインハルトは、セレスティーネにとって唯一心を許せる相手だ。
本来内気なセレスティーネが神殿で何とかやっていけているのは、いつも明るく励ましてくれるラインハルトの存在が大きかった。
(ハルがそばにいてくれて本当に良かった……)
特にこうしてたびたび食べ物を差し入れてくれるのは本当にありがたい。そう思っていた矢先、おいしそうに骨付き肉にかぶりつくセレスティーネを見守っていたラインハルトが、意を決したように切り出した。
「実は俺さ、今度実家の伯爵家を継ぐことになったんだよね」
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