第2話 聖女様はいつも腹ペコ

◇◇◇


「ああ、また今日も皆を騙しちゃった……」


 シンッと静まり返った大聖堂の片隅で一人ぼやくセレスティーネ。


「まーたぼやいてんのか?」


 そこにやってきたのは聖騎士のラインハルトだ。両手にお祝いで出された骨付き肉を持っている。


「ほれ。どうせ今日もまともに食ってないんだろ?」


 ラインハルトが差し出した肉を躊躇することなく受け取るセレスティーネ。


「ありがと。朝からお祝いが続いてたから、お昼ごはん食べる暇なくって」


 さっきからセレスティーネのお腹の虫は鳴りっぱなしだ。


「全く、神殿の奴らも気が利かねーよな。これだけお祝いの料理が準備されてて、誰もお前に料理の差し入れしないなんてよ」


 そう。神殿で結婚式が行われるときは結婚する両家が用意した心尽くしの料理が神殿関係者にも振る舞われるため、この日は神殿で料理を作らない。


  通常世話役の人たちが神殿関係者に料理を運ぶのだが、セレスティーネの分はなぜか忘れられることが多かった。決して意地悪をしているわけではなく、あまりに人間離れした美貌に、普通に飲食するイメージがわかないらしい。せいぜい飲み物を運んでくる程度なのだ。


「あはは、なんか、花の蜜とか霞とか吸ってるイメージみたい」


「虫じゃねーんだからよ」


「同感……」


 そう言うなり持ってきてくれた骨付き肉にかぶり付く。特にこうしたワイルドな料理はめったに口にすることができない。田舎で育ったセレスティーネは肉や魚が大好きなのに、食卓にはいつも野菜サラダや野菜スープ、果物ばかり用意されるのだ。


  これもまたセレスティーネの儚く可憐なイメージがなせる業なのであろう。人の好みをイメージから勝手に推測するのはやめて欲しいと思うのだが、田舎者のセレスティーネは口にする度胸がなく、どうもそのイメージで定着してしまったようだ。


「はぁ、美味しい」


 うっとりと目を細めるセレスティーネをラインハルトはにこにこと見守っている。


「そうかそうか、良かったな。酒も飲むか?」


 そう言うと腰に下げていた酒の瓶を差し出してくる。


「ん。一口頂戴」


「よしよし、飲め飲め」


「ありがと」


 セレスティーネは受け取った酒瓶を口に含むとコクコクと飲み干し、ふう、と溜め息を吐いた。


 なかなかの飲みっぷりである。


「いつまでこんなこと続けないといけないのかなぁ」

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