第53話 キャロの帰還
「全部で53000ptの稼ぎになったな……」
あれから、ボス部屋から【脱出石】で帰還した俺たちは、早速ドロップをポイントに変換した。
「普通の狩りで20000pt、ボス部屋のドロップが33000pt。一日の稼ぎとしては最高記録ですね」
キキョウも唖然とした表情を浮かべている。魔石や回復石を大量に消費してしまったが、彼女たちが対抗するように狩りをしまくった結果だ。
「全員の動きもわりと安定していたし、良かったじゃない」
キャロはそう言うとコップに水を汲み喉を潤わせる。まだ余力が残っているように見えた。
「これで、当分のptは大丈夫そうだな」
キャロを向こうに往復させるためには10000ptが必要になる。俺とキキョウだけでは稼ぐのに時間がかかるので、キャロが戻る前にまとまった収入があったのは嬉しい。
ふと考える。
「分け方どうしようか?」
普通なら、それぞれのptに変換させるのだが今回はキャロがいる。
彼女はモノリスを操作して買い物ができないのでどうすればよいか>
「私の分はアイテムでもらえない? 借りてた魔石代も返すからさ」
キャロは床に横になり寛ぐとそんな提案をしてきた。
「それでいいなら構わないけど、魔石に関しては俺が戻るためにも必要なアイテムだし、トーリやメアリーが出してくれた分もある。ここに来るまでに掛かったアイテムは俺に補充させてくれ」
数ケ月行方不明になっている俺をまだ仲間と思ってくれているトーリとメアリー。あの二人にも負担を掛けたくなかった。
「そう? それなら、構わないけど。じゃあ今回の狩りの分け前は三等分として、二人には私が欲しいアイテムを出してもらうってことでどうかしら?」
「……構いません」
あらかじめ決めていたかのように言葉がスラスラと出てくる。
「何が欲しいんだ?」
俺は、彼女がどのアイテムを欲しがっているのかが気になった。
「そうね、まずは――」
彼女は俺たちが購入できるアイテム一覧を凝視すると欲しいアイテムを告げてきた。
「それじゃあ、トーリたちに説明してくるから。その間、くれぐれも死なないようにしてよね」
マントを身に着け、帽子を被ったキャロはリュックを背負い、手提げ袋を両腕に持ち上げ震えている。
これから、トーリとメアリーの下に戻るのだ。往復分の魔石ともなると、かなり重たいらしく力が弱い彼女は必死に持ち上げていた。
「ああ、わかった。無茶はしない」
「キキョウも、ライアスのことをお願いするわね」
「……貴女に言われるまでもありません」
キキョウはキャロを睨みつけている。どうやら、俺が目を離した隙に言い争いをしたらしいのだが、キャロもキキョウもそのことについて一切触れなかった。
仲直りして欲しいと思ったのだが、今朝起きたらキャロが唐突に「知りたいことは知ったし、試したいこともあるから帰る」と突然言い出したのでその時間もなかった。
「向こうで色々な方面に話してくるから、次に戻ってくるのは一週間後にしておくわ」
なんでも、俺がモノリスから消えた事件は大事になっているらしく、もしあちらに帰還した場合、少なくない騒動が起こる可能性が高いらしい。
「面倒を掛けて悪いな……」
「いいわよぉ。別に私が好きでやってることだし」
そう言いつつ、にへらと柔らかい笑みを俺に見せた。面倒ごとがある時、キャロは大したことないとばかりにこのような表情を作ることがある。
「そうは言っても、矢面に立つのはキャロなんだから……」
彼女の人脈を使って俺が戻った時の安全を確保してくれるという話だが、キャロの負担が大きい。
流石にそれがわかっている以上、申し訳ない気持ちで眉が歪むのを抑えられなかった。
「そうね、だったら。王都に戻ったら二人だけの時間をちょうだい。あの時の約束がまだ終わってないから」
キャロはそう言うと頬を赤くする。
「一緒にお茶を飲むんだったよな? 楽しみにしている」
「合格。うん、やる気でたわ。それじゃあ、面倒なのはささっと片付けてくるから」
彼女は目を閉じ集中して魔法を唱え始める。膨大な魔力が溢れ、魔石が輝く。
やがて、しばらくすると、彼女の姿がすっと掻き消えた。
「成功したのでしょうか?」
キキョウが眉をひそめ、先程までキャロがいた場所を見つめている。
「成功したに決まっている。俺たちは一週間後にキャロが戻ってきた時のために狩りをしておこう」
「……はい」
脱出方法を考えるにしてもptが大いに越したことはない。キキョウも復活したみたいだし、この機会にリハビリを兼ねてどんどん戦闘をするべきだろう。
俺たちは、キャロが戻ることを信じて、ユグドラシル迷宮へと挑むのだった。
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