第50話 キキョウとキャロからの提案
「ねえ、この迷宮の各階層に転移することができたのよね?」
二階に辿り着くと、キャロがそう質問をしてきた。
「ああ、俺がモノリスから買える【階層移動石】を使えば『行ったことのある階層』に転移することができるな」
「だからなのね。私はまだ二階層に来たことがないから、こうしてちゃんと進んで来たんだ?」
キャロはそう言うと口元に手を当て感心した様子で俺を見る。
確かにそれもある。だが、どちらかというとキキョウが本当に戦えるようになっているのか確認したかったのが大きい。
「にしても、転移系の魔法が封じ込められた石ってのも凄いわね……。他にも種類があるんでしょう?」
「ああ、昨日も話しただろ。【記録石】と言って『記録した場所に瞬時に移動することができる』アイテムと、【脱出石】と言って『迷宮入り口に戻ることができる』石がある」
酔っている中の説明な上、他の属性武器や防具にも興味を惹かれた様子だったので、キャロが覚えていない可能性もありもう一度説明しておく。
「なるほど……それは興味深い。もしかすると……」
彼女はアゴに手を当てて考え込み始めた。こうなると時間がかかるのを俺は知っている。
この機会に、気になっているもう一人の同行者へと視線を動かす。
「キキョウ、どうだ。疲れていないか?」
ここまでは慣れているモンスターが相手だし、こちらも三人いるので特に苦戦するような戦闘はなかった。
「ええ、平気です。逆にライアスから見て気になるところはありませんでしたか?」
俺が様子を聞くと逆に質問をされる。キキョウは耳をピクピク動かすとじっと俺を見つめ、答えを待っていた。
俺は先程の戦闘でのキキョウの動きを思い出す。
「普段よりも鋭い動きをしていたと思うぞ」
これは、この前のボス部屋で戦った成果かもしれない。敵と戦い生き残ると強くなる。この迷宮の仕組みでもあり、恐らく俺たちの故郷でも適用される法則だろう。
キャロが俺が強くなっていることを不思議に思い、これまでの行動を説明したところ、そう分析してくれたのだ。
通常でもモンスターを倒せば少しづつ強くなる。この迷宮は強いモンスターしかいないので、経験を積めて短時間で強くなれるのだろうと……。
「そうですか、なら良いのですが……」
嬉しそうな様子を一切見せず表情を引き締めているキキョウ。だが、動きの切れも良いし、これならば二階層も問題なく進むことができるだろう。
「ライアス、そろそろ行きましょうか」
「考え事はもういいのか?」
いつの間にか、キャロが思考を終えて話し掛けてきた。
「ええ、そっちはいくつか試したいことがあるけど、今はいいわ。まだ見ぬ未知のモンスターを分析する機会だからね」
キキョウの故郷のモンスターに興味を惹かれたのか楽しそうだ。
俺は苦笑いを浮かべると、キャロの気を引き締めるために言っておく。
「それじゃ、ここからは敵も強くなり数も増えるから、俺とキキョウが前に出る、キャロはいつも通りに頼んだぞ」
「わかりました」
「わかったわよ」
二人の返事を聞くと、俺たちは進み始めた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「だいぶ、連携もできるようになったわね」
息を切らすキキョウと、疲労を滲ませたキャロを見る。
普段とは違ってペース配分を行わないキキョウは、最速で立ち止まることなくモンスターを攻撃し続けた。
キャロもその動きに刺激されたのか、小威力から中威力の魔法を織り交ぜ、攻撃を飛ばしてきた。
お蔭で二人揃ってばててしまっているのだが、この対抗意識は迷宮攻略においてプラスに働くに違いない。
ボス戦において、どれだけ鋭い攻撃を維持できるかで戦闘効率が変わってくるからだ。
「どうする、結構稼げたと思うし、そろそろ戻るか?」
一階を踏破して二階でもかなりの時間狩りをした。今日はここらで切り上げてもいいかと考え提案してみるのだが、二人は同時に俺に返事をした。
「ライアスに頼みがあるわ」
「ライアスにお願いしたいことがあります」
二人は俺を見ると同時に告げる。
「「この二階のボス部屋に挑ませて(下さい)」」
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