第41話 ボス部屋②
「はっ! やっ! ……はぁはぁ! くっ!」
疾風がフロア内を駆け抜け、ゴブリンの叫び声が聞こえる。キキョウが魔法を放ちゴブリンを討伐しているのだろう。
襲ってくるゴブリンは種類も多く、遠距離・近接・支援と織り交ぜた編成のため、普通に戦えば苦労する。
だが、キキョウの敏捷度と、魔法の巻物があればそのどちらにも対応できるので問題ないと思っている。
互いの敵さえ引き付ければアイテム保有の差で俺たちが勝つ。そんなことを考えながら一時間程経過すると……。
「くっ!」
ゴブリンロードの視線の動きが変わり、嫌な予感がした俺は瞬時にその場から飛びのいた。
次の瞬間、俺がいた場所を氷柱が貫いた。
「す、すみませんっ、ライアス!」
キキョウの焦る声が聞こえる。どうやら、ゴブリンメイジのターゲットを外してしまったらしい。
声を出したことで、ゴブリンロードの視線が外れ、背後にいるキキョウを見る。このままだと連携が崩れ乱戦になってしまう。
そうなると、互いに全方位に注意を向けなければならなくなるので、それだけは避けたかった。
「炎よっ!」
火球を発生させ、ゴブリンロードの鎧に命中させる。俺はどうにかやつの注意を引き戻した。
俺は火炎をぶつけてゴブリンロードの注意をこちらに引き戻した。
「キキョウ! 取り巻きの排除を急いでくれっ!」
ここにきて気付く。彼女の動きに精彩さがなく、切り込むべき場面でゴブリンに斬り込めていない。
結果として、時間が経ってもゴブリンを減らすことができず、逆に余裕ができたゴブリンがあぶれて俺を攻撃してきているのだ。
「わ、わかってますっ!」
キキョウは叫び返した。上手く行っていないのは本人が一番理解しているのだろう。苦悶の表情を浮かべながらも、どうにか状況を打破しようと動き回っているのだが、攻撃をゴブリンウォーリアに止められ、ゴブリンメイジの魔法を避けるのに必死になっていた。
「こうなったら……」
俺は魔石を取り出すと魔力を回復させる。
「炎よっ!」
ゴブリンロードの相手をしながら目に映る取り巻きに魔法で攻撃を仕掛ける。
これまでゴブリンロードの相手で精一杯だった俺からの不意打ちでゴブリンたちは一時的に混乱した。
「今のうちに、減らせるだけ数を減らすんだ!」
「はいっ!」
キキョウが刀を抜き、後衛のゴブリンプリースト・ゴブリンアーチャーへと飛び込んでいく。
こいつらさえ潰せれば少しは楽になるはず。
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「当然、見逃してくれないよな!」
魔法を唱えた大きな隙を狙い、ゴブリンロードが迫っていた。巨体による突進からの剣撃。体重が乗っているので、これをまともにくらうと致命傷なのは明らかだ。
既に躱せる間合いではなく、俺はその攻撃が自分へと到達するのを確認する。
「甘いっ!」
次の瞬間、俺の視界が一瞬で切り替わった。
『ゴブアッ!?』
俺の姿を見失ったゴブリンロードがキョロキョロと周囲を見回す。
戦闘の最中、記録石でいくつかの場所を記録していた俺は、その一つを使って違う場所へと移動した。
目の前にはゴブリンメイジが数匹立っており、俺を見てたたらを踏む。まさか安全圏にいたはずがいきなり目の前に俺が現れるとは思っていなかったのだろう。
俺は剣を振るとゴブリンメイジ数匹を瞬く間に斬り伏せた。
「ふぅ……」
これで少しは攻撃を気にする相手が減り楽になったのだが、今の行動はアイテムの消費が激しいのであまりやりたくない。
『ゴブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
俺の姿に気付いたゴブリンロードが突進してくる。
俺が左右への動きも取り混ぜながらゴブリンロードの攻撃をかわし、注意を引き付け続けていると……。
「ライアス、お待たせしましたっ!」
十数分程が経ち、すべての取り巻きゴブリンを排除したキキョウが応援に駆け付けた。
「そのまま、ゴブリンロードの背後から攻撃を仕掛けてくれ!」
キキョウが取り巻きを全滅させて合流してきたのだ。
「わかりましたっ!」
彼女は疾風の小太刀を構えるとゴブリンロードの背中を斬りつけた。
『グオオオオオオオオオオッ!』
疾風の小太刀が浅く背中を斬りつけると、ゴブリンロードは怒りににじませた視線をキキョウに向ける。
ゴブリンロードが発する威圧が凄く、視線を向けられていない俺ですら一瞬身震いしてしまう。
「あああああ……あぁ……」
剣先が下がり、キキョウの耳と尻尾が震えている。
「早くっ! 離れろっ!」
ゴブリンロードが武器を振りかぶる間も、彼女は地に足が縫い付けられているかのようにその場から移動しようとしない。
キキョウの攻撃スタイルは自身の素早さを活かした一撃離脱だ。攻撃を仕掛け一撃与えたらその場を離れる。
これまでのモンスターはそれでキキョウに気をとられている間に接近を許し、俺から渾身の一撃を受けて倒れていた。
だというのに、今日のキキョウは攻撃を当てた後もその場で立ち止まってしまっている。
「このままじゃまずい!」
今日の彼女の動きは明らかに鈍く、このままでは致命傷を受けてしまう。俺は背を向けるゴブリンロードを睨みつけた。
「『バーニングバッシュ』」
炎を纏った剣を鎧に叩き付ける。
『グアッ!』
プロテクターに阻まれはしたが、確かなダメージを与えることに成功した。
だが、一瞬気を引けこそしたものの、ゴブリンロードはキキョウへと視線を戻してしまった。
どうやら、まずは与しやすいキキョウを排除し、その後で俺とさしで戦うつもりのようだ。
これまでの戦闘で、俺と一対一なら攻撃を決めきれないと見切っているのだろう。
「キキョウ! 離脱しろっ!」
このままでは攻撃を受け、致命傷を受けてしまう。
ゴブリンロードが大きく剣を振りかぶり、今度こそキキョウを攻撃しようとしているのだが……。
「……あああああ」
キキョウは表情をこわばらせて、口をカチカチと鳴らしている。俺からの声が届いておらず、その場に立ち尽くしてしまっていた。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「きゃああああああああああああ!」
「キキョウ!!!!」
ゴブリンロードの剣が一閃する。
キキョウはどうにかその攻撃を自分の太刀で受け止めるが、疾風の小太刀は折れ、彼女は吹き飛ばされてしまった。
「……ううっ」
壁に背を預けながらどうにか身体を起こす。
真っ白だった装束が赤く染まり、胸元を深く斬られたことがわかる。
『グフッグフッ』
ゴブリンロードは嗜虐的な笑い声をあげ、ゆっくりとキキョウに近付いていく。
その間、俺はゴブリンロードに攻撃を仕掛けるのだが、膜のようなものに阻まれ浅くしか斬ることができずに進行を阻止することができない。
「キキョウっ! 起きろっ! 離脱してくれっ!」
彼女は意識を失っているのか脱出石を使う様子がない。このままではキキョウにとどめを刺されてしまう。
「くそっ! このっ!」
転移系のアイテムは使った本人しか移動できない。
「こうなったら……」
俺がいったん距離を取り、亜空間からある物を取り出す。
そうしている間にもゴブリンロードはキキョウに近付き、とどめの一撃を加えようと嗜虐的な笑みを浮かべると、
「させるかああああああああああああああああっ!」
ゴブリンロードが武器を振り下ろす直前。俺は全力で突進をする。
次の瞬間二つの刃が対象を攻撃した。
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