第40話 ボス部屋①

 目の前には不気味な扉が佇んでいる。赤を基調として全体に稲妻が走ったような模様がある。禍々しさを感じるのは、中にボスがいると知っているからだろうか?


 このユグドラシルに来る以前、俺はトーリたちと何度か中ボスに挑んだことがあった。

 自分たちが攻略できる適正難易度の迷宮で、出てくるボスはそこまでぶっちぎりの強さがないかわり、取り巻きが多数いるので、そっちの対応に時間をさかれた記憶があった。


 それでも、以前は迷宮探索で疲れている状態で挑まなければならなかったのに対し、今回は記憶石を使って転移してきているので万全の状態となっている。


 俺とキキョウの連携も問題なく、情報の共有もできているので、あの時よりはリスクを減らして攻略できるだろう。


「中に入ってモンスターの種類を確認して、それが知っている相手だった場合は情報の共有を頼む」


「わかりました!」


 問題は、俺とキキョウどちらの記憶を読み取ったボスが出現するかだ。

 このユグドラシル迷宮は、攻略している探索者が知っているモンスターが出現するらしく、現状では俺かキキョウのどちらかの故郷のモンスターが現れるはずなのだ。


 敵の情報――特に弱点を知ることができれば戦闘を楽に進めることができる。俺は準備をしているキキョウを見た。


 彼女の身体を淡い光が包んでいる。

 これは、キキョウが各種巻物を使って身体能力を強化した結果だ。


 彼女から感じる気配は普段よりも強く、これならばボスに挑むのに十分だと確信がもてる。


「開けるぞ」


 俺が右でキキョウが左。重厚な扉を開き、中に入ると壁にあるロウソクに火が灯った。


 部屋の中心で何かが動く。ロウソクの明かりに照らされ、おぼろげに姿が映った。


「……ゴブリンロード」


 数メートルを超す巨体に特大のサーベル。全身をプロテクターで囲んだモンスターがこちらを見下ろしていた。


「ライアス! 取り巻きたちがっ!」


 ゴブリンロードの周辺には弓や杖に短剣に斧などを持ったゴブリンが多数いる。


 その数は多く、一匹ずつなら大したことないゴブリンもこれだけの数が相手となると、流石に厄介に感じる。


「こいつはゴブリンロードというBランクモンスターだ! 高い攻撃力と地属性の魔法で地面を隆起させてくることがある。取り巻きは攻撃魔法や回復魔法、矢や剣や斧で攻撃をしてくるから気をつけろ!」


 俺は素早く自分が持っている情報をキキョウへと伝える。


「俺がゴブリンロードを抑えるから、その間に取り巻きを削ってくれ!」


「わかりましたっ!」


 ゴブリンロードの軍団は、本来なら十二人以上の三パーティーからの編成で挑むのが常識だ。


 前に盾役を三人用意してゴブリンロードの攻撃を受け止め、耐えている間に他の人間が取り巻きを排除する。


 取り巻きを倒したら全員で囲むように攻撃し、ゴブリンロードの土魔法にさえ気を付けて戦うというやり方だ。


 その際にネックになるのは、盾役が耐える際に使う回復石のせいで出費がかさむ点なのだが、幸いなことに今の俺たちはモノリスのお蔭で回復石を豊富に保持している。


「つまりっ!」


 俺は飛び出すとゴブリンロードと対峙し剣を合わせる。流石に力負けしてしまうが、ドラゴンほどの圧力は感じない。


 例の白いオーラを纏った状態でなら、押し勝てないまでも耐え忍ぶことは出来そうだ。


「このまま耐えていれば戦況はこちらが有利だ!」


 回復石を使い続ける限り膠着状態を生み出せるのなら悪くない。


 後はキキョウが取り巻きを排除すれば二対一になる。単体では強力なゴブリンロードも構造は人間と変わらない。


 死角にまわり込み、攻撃し続ければいずれは倒せる。俺たちはアイコンタクトで通じ合うとお互いの役割をはっきりと認識した。


『ゴブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!』


 ゴブリンロードが叫び声を上げながら俺に襲い掛かってくる。流石はボス部屋のモンスターだけあってその攻撃は速く重い。


「ライアス!?」


 キキョウの心配そうな声が聞こえるのだが、


「大丈夫、この程度なら一時間でも二時間でも耐えて見せる。キキョウは俺に構わず攻撃しろ!」


「わ、わかりましたっ!」


「さて、それまでは俺と踊ってもらおうか!」


 俺は不敵な笑みを浮かべると、ゴブリンロード相手に戦闘を仕掛けるのだった。

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