第39話 違和感
「さて、今日で休養は終わりにして明日からのことなんだけど……」
ユグドラシル迷宮でドラゴンと対峙してから三日が経過した。
迷宮に潜る際の鉄則に従い、俺とキキョウは、二日間ゆっくりと休養を摂って疲労を回復させると、ふたたび迷宮に潜るための相談をしていた。
「とりあえず、新しく火属性剣も手に入れたし、折れた時の予備も用意したからな。ボス部屋くらいならいけると思うんだが……」
現時点でドラゴンを倒せるイメージが湧かないので、別な攻略方法を模索していた。
ボス部屋を攻略することで、ドラゴン特攻の武器やブレスを反射する防具など、今後三階を探索するのに役立つアイテムが手に入るかもしれない。
そうでなくとも、手に入るドロップアイテムをポイントに変えれば潤うに違いない。
最終的に故郷に戻るためには、あのドラゴンも二人で倒す必要がある。俺がその算段を相談しているのだが、キキョウは下を向くとじっとしていた。
よく見ると、食事にもほとんど手を付けておらず、とっくに冷めてしまっている。
「どうした、キキョウ?」
この二日の間、キキョウはどこか元気がないように見える。
俺が話し掛けても曖昧な笑みを浮かべるし、日中はどこかに消えてしまい戻ってくるのは夕飯時。食事を終えると直ぐに寝てしまうので、話をすることができなかった。
「ちょっと、気分がすぐれないようで……」
「大丈夫か? 熱があるんじゃ?」
俺がおでこに手を当てで熱を測ろうと近付くと顔を逸らして避けてしまう。その仕草を避けられているように感じた。
「い、いえ……大丈夫です。ただちょっと食欲がないだけですから……」
本人がそう答えるのなら、これ以上この件で突っ込むわけにもいかない。
「ならいいけど、何かあったら俺を頼ってくれ。俺たちはともに迷宮を攻略するパートナーなんだからな」
せめて、彼女の支えになりたいと思い、そう告げておく。
「そう……ですね……」
だが、彼女は唇を震わせ不安そうな表情を浮かべ口を開くのだが、言葉は一向にでてこなかった。
「あの……やはり気分がすぐれないので、今日はお先に休ませていただきます」
俺の返事を待つまでもなく席を立つと、彼女は離れた場所に布団を敷くと俺に背を向けて寝てしまった。
俺はそんな彼女の様子が気になったのだが、結局何もいうことができず、その日は眠るのだった。
「じゃあ、とりあえず二階のボスに挑むってことでいいか?」
翌日になり、朝食を摂って準備を整えた俺は、キキョウに本日の狩りについて意思の確認を行う。
「ええ、それで構いませんよ」
昨晩とは違い、普段通りの様子を見せるキキョウ。やはり単に体調が悪かっただけで、一晩休むことで回復したのだろうか?
「それにしても、前回の狩りで得たptでは新しいアイテムが解放されなかったのは残念ですね」
俺がじっと見ていると、彼女は会話を続ける。内容は、俺たちがドロップアイテムを変換した際、上限を超えると解放される新しい項目についてだ。
結構長期間籠っていたので、もしかすると新しい項目が追加されるかもしれないと期待したのだが、それはなかった。
現在、俺が18万pt程でキキョウが17万pt程保有している状態になった。
これまでの傾向から15万ptで何か新しいアイテムが解放されるのではないかと予測いしていたのだが、特に何もなかった。
「流石に20万ptなら何か解放されると思うけど、便利アイテムは高いから中々溜まらないんだよな……」
先程の買い物で脱出石やらいろいろ揃えたので、目標に到達させるためにはよりいっそう狩りをし続けなければならない。
「まあまあ、頑張って一杯稼げば平気でしょう! 今日からまた張り切って狩りをしましょう」
「あ、ああ」
妙に明るい声を出すキキョウに、俺は違和感を覚えながらも首を傾げ、迷宮へと入って行くのだった。
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