第35話 三階層

「ライアス、あれを見てください!」


 キキョウは嬉しそうな声で前を指差した。

 俺がそちらを向くと、そこには階段があった。


「ようやく、三階に上がることができますね」


 キキョウは満面の笑みを浮かべている。二階を探索すること合計で15日。

 この迷宮ユグドラシルは相当広いので歩き回るだけでも大変だった。


「これでようやく小屋で休むことができるな……」


 俺は溜息を吐くと肩を揉む。


 離脱用のアイテムが手に入ったことで、逆に俺たちはさらに長期間迷宮に籠ることになった。


 一度の探索を途中で切り上げるよりは、次の階に到達することで『階層移動石』を使ってショートカットすることが出来るようになったからだ。


 一端仕切り直しをする場合、記録石を用いて小屋に戻るか、もう一度同じ階の入り口からやり直すことになる。


 それぞれの石は決して安くもないので、俺もキキョウも節約をするため迷宮に留まった。


「取り敢えず、三階に登ったら帰るとしよう」


 俺とキキョウは階層移動石の条件を満たすため三階へと向かう。


「ライアス、この後はどうしますか?」


 キキョウの質問内容のこの後とは、小屋に戻ることではない。小屋に戻って休養をとった後の話だ。


「記録してあるボス部屋が二つあるんだよな。そのうちどちらかを攻略してみるべきか……」


「あるいは三階のモンスターと先に戦ってみるのもありかもしれません」


 それも一つの選択だ。


 迷宮に籠っていると様々な選択肢が発生する。迷宮内で分かれている道を選ぶことだったり、行動に優先順位をつけたり。


 些細な選択ミスが致命的な事態を引き起こすことも珍しくないので、俺はこの選択に悩んだ。


 ボス部屋のモンスターや編成が俺たちと相性が悪くて苦戦する可能性もあるし、三階のモンスターにとって特攻の何かを落とす可能性もあるのだ。


 俺は少し考えると、今の段階でもっとも効率的な方を選ぶことにした。


「とりあえず、今日はこのあと三階を少しだけうろついて帰ろう。どちらにせよ脱出石を使うのは確定しているわけだし、それなら三階のモンスターと戦って苦戦するようなら合図を決めて脱出すればいい」


 一階ではDランク相当のモンスターが出現し、二階ではCランク相当のモンスターが出現した。そうなると三階ではそれ以上のモンスターが湧くと考えるのが当然だ。


 二週間、ずっと二階で生き残ってきた俺たちならやれなくはないと考える。装備も回復アイテムも、魔法も術も、戦闘力も格段に上がり連携も良くなっている。


 たとえ初見のモンスターが出てきたとしても滅多なことにはならないだろう。


「そうですね、確かにそれが一番よさそうです。でも、危険な状況の判断は早めにお願いします。引き際が大事ですからね」


 そう話している間に、三階に到着した。


 俺とキキョウは、しばらく休憩し態勢を整えると、ユグドラシル迷宮三階の探索を開始するのだった。

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