第34話 相談②

「さて、次は私の方の購入アイテムですが、どうしましょうか?」


 キキョウはそう言うと俺に意見を求めてきた。


「……どうしようかな?」


 その視線を受けて、俺は悩むとアゴに手を当てて考える。

 彼女が購入できるアイテムは、一時的に身体能力を強化するもので、価格が高い上に消耗品だからだ。


 基本的に、俺たちは二人だけで迷宮に挑んでいるので無理はしない。そうであるならば、キキョウ側のアイテムを使う頻度はかなり低くなるだろう。


「【ランダムテレポーテーション】の巻物は、同じ階層の違う場所に転移できる。これはある意味便利ではあるんだよな」


 たとえば、何度か転移した先の目の前にボス部屋があったり、上に登る階段があったりすれば、大幅な時間の短縮に繋がる。


「でもそれだと、ライアスと離れ離れになります。お互い近くにいた方が良いですよ」


「ごもっともだ」


 一人で飛び回ってボス部屋や階段前で記録石を使うごり押し戦法も有効だが、アイテム購入費用がばかにならない。


 現状、多少時間は掛かっても前に進めているのだから、この方法は最終手段で構わないだろう。


「後は、これらの身体能力を強化する巻物ですね」


 キキョウはモノリスに映るアイテムを見て眉を歪める。どういう物なのかあまり理解していない様子だ。


「俺の故郷にいる仲間の一人がこの手の支援魔法を使えたんだが、これがあると身体能力が引き上がるから、今まで苦戦していたモンスター相手に有利に戦えるようになるぞ」


 支援魔法は希少なので、体験した人間はそう多くない。


 俺はメアリーと同じパーティーだったので、戦闘時によく掛けてもらっていたが、逆に常に支援魔法があった状態だったので、この迷宮前に飛ばされた時は支援がないことに不安を覚えたものだ。


「ですが、現状ではあまり必要がない気がしますね。二階層のモンスターは既に余裕をもって倒せますし、ライアスの白いオーラのようなものですよね?」


 仕組みはまだ解明されていないが俺は意識的に身体能力を上げることができる。その際に白いオーラが出るのだが、この方法での身体能力強化はメアリーから受ける支援魔法よりも効果が上だったりする。


「俺は自前で強化できるけど、キキョウは最低限揃えておいた方が良いと思うぞ」


「そう……ですかね?」


 難しそうな顔をするキキョウ。なまじここまで上手く立ち回れているせいか、この消耗品でポイントを消費することに踏ん切りがつかないようだ。


「これがあれば、不測の事態で苦戦しても態勢を整え直すことができるし、キキョウの身に危険が及ぶ可能性を減らすことができるだろ? 確かに、高い買い物かもしれないがまずはキキョウの身の安全が第一だと思う。納得できないかもしれないが、念のためにもっておいてくれないか?」


 脱出石があるとはいえ何が起こるかわからないのが迷宮だ。彼女の身の安全を守るアイテムなら備えておくにこしたことはない。


「あ、あなたがそう言うのなら持っておくことにしますけど……」


 キキョウは顔を逸らすとモノリスを操作して各種巻物を購入する。

 尻尾を振っているので、何やら嬉しそうだ。もしかすると俺が言うまでもなく使ってみたかったのかもしれない。


 少しして箱が開き、注文した巻物が置かれていた。

 キキョウはそれを回収すると並べ、半分を俺に渡してきた。


「あなたの分です」


「えっ? 俺の分まで買ったのか?」


 巻物が6種類で一人12000pt。二人分なので24000ptともなると結構なポイントの消費だ。


「先程、あなたが言ったのではないですか。念のために持っておくようにと」


「それはそうなんだが、俺は自前の強化もできるし……」


「その場合でも、この巻物の効果が上乗せできる可能性はあります。私だってライアスの身を案じているのですよ」


 真剣な瞳でそう告げてくるキキョウに、俺は驚きを隠せない。


 信頼できる仲間だとは思っていたが、ここまで俺の身を案じてくれているとは……。


 ふと、胸が暖かくなると、俺は彼女の頭に手を置いた。


「な、何ですか、急に……」


 頭を撫でていると、上目遣いに見上げてくるキキョウ。

 瞳を潤ませ、頬を紅潮させており、妙に可愛らしく見える。


「俺の身を案じてくれてありがとう。嬉しいよ」


 俺が素直に礼を言うと、彼女は獣耳をぴくぴくと動かす。


「あ、当たり前ではありませんか。私とライアスは運命共同体です。どちらかが倒れては迷宮攻略もままなりません」


 必死な様子で言い訳をするキキョウ。その姿がおかしく、


「あっ、何を笑っているのです!?」


 キキョウは目を吊り上げると俺を睨みつけてきた。ここで彼女の不興を買うとこの先やり辛くなる。


「俺も、キキョウの無事を願ってるから」


「なっ!?」


 俺の言葉に、彼女は獣耳をパタパタ動かすと、


「ず、ずるいですよ、そんな言い方するなんて」


 恥ずかしいのか顔を背けると尻尾を見せてきた。

 そんな彼女に、俺は暖かい視線を送るのだった。

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