第33話 相談①
「うっ……」
身体をブルりと震わせた俺は、腕を擦った。
「どうかしましたか、ライアス?」
キキョウが振り返り首を傾げる。最近の彼女は俺の一挙一動によく気付く。
この前も、鎧の留め具が外れていたことに気付き、変わりに留めてくれたり、顔についた汚れを拭いてくれたりした。
仲間の動きにいち早く気付けるのは一流の戦士の条件。そう言う意味では彼女は既に一流なのだろう。
「いや、なんでもない。何か違和感があった気がするが気のせいだろう」
一瞬身体の中を自分以外の人間の魔力が駆け巡ったような気がしたのだが、今は気配が消えている。元々、魔力というものに疎いので、このような現象があるのかわからないので気にしないことにした。
「それよりも、何をどれだけ購入して迷宮に潜るかだな」
昨晩、久しぶりの酒を呑み明かした俺たちだが、午後になると起床して迷宮の一階で各種アイテムの検証を行った。
結果として、それぞれのアイテムは大体俺の予想通りの使い方をすることが出来たので、次に迷宮で三階を目指す為にどのアイテムをどれだけ用意するか話し合っていた。
「そうですね、まず【脱出石】に関しては文字通り迷宮の入り口に戻るためのアイテムなので一度の迷宮探索で各1つあればよいでしょう」
「そうだな。この場所に俺たち二人しかいない以上それで十分だ」
検証の結果、今回の便利アイテムである各種魔法石は戦闘時であっても使用できることが発覚した。
「階層移動石については戦闘を立て直したい場面や迷宮の奥で迷った際に一度探索を仕切り直すのにも使えますから、それぞれ5個は持っておいても良いかもしれません」
こちらも消耗品なのだが、1つで5回まで使うことができるので、25回分用意すれば足りそうだ。
もっとも、これらのアイテムは俺しか取得できないので、今のところの提案を受け入れた場合俺だけで12000pt消費することになる。
前回、二階に二週間籠り、徹底的に狩りをした稼ぎはほぼ50000pt。そう考えるとこの準備だけでも結構な出費になる。
「後は【記録石】だな。これはある意味どこにでも飛ぶことができるから、ある程度は用意しておきたいと思う」
「迷宮探索のリスク回避なら、今あげた二つのアイテムで十分対応できるのではないのですか?」
キキョウは首を傾げると口元に指をあてた。
「逃げるだけなら確かに十分だけどな、迷宮に深く潜っていくとボス部屋が存在することがある。今のところその気配はないけど、もしボス部屋があった場合できれば一度仕切り直しをしたいと思っているから、そうなると【記録石】はあった方が良いだろ?」
ボス部屋の前で【記録石】を使い、一度迷宮を脱出して万全の状態に整えてから挑む。それだけで生存確率に相当の差が出るのではないかと思う。
かつて、トーリたちと迷宮に潜っていた頃にもボスに挑んだことがあるのだが、ボス部屋は迷宮の奥深くに存在しているので、辿り着くまで疲労する。
その状態で戦闘することを強いられるので、結構苦戦した記憶がある。
「別に、ボス部屋を開けなければよいだけではないですか? 無視して次の階層を目指した方が良いのでは?」
キキョウは疑問を口にするのだが、
「ボス部屋はボスを討伐するとレアアイテムがドロップするんだ。迷宮に普通に湧くモンスターと違って出てくるレアアイテムの質が違うからな。普通の迷宮でも美味しいアイテムがドロップされるんだし、この迷宮を攻略するつもりなら挑む価値はあるだろう」
この迷宮は特に色々謎も多い。超レアアイテムを期待できる以上、完全に無視するのは厳しかった。
「はぁ……、ライアスがそう言うのならまあいいです。では記録石も2つで、ボス部屋があった場合は仕切り直すために記録して脱出するということで良いですね?」
「いや、6つにしよう。ボス部屋を記録するのは当然だが、この迷宮に競争相手はいない。それなら他にもボス部屋があるかもしれないからな」
戻るという手順を踏むことに変わりはないが、一度の狩りで多くの成果を上げた方が良い。
「まあ、あって困るものではないからいいでしょう」
若干呆れ気味のキキョウだが納得してくれたようだ。
この時点で俺は最低でも18000ptは使うことが決まった。
「それじゃあ次はキキョウの方のアイテムについて話し合うとするか」
アイテムを購入すると、半分彼女に渡し、相談の続きをするのだった。
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