第32話 キャロの特訓
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「…………ロ!」
身体を揺すられ、誰かが声をかけてくる。
「…………ャロ!」
自分を呼び掛ける声に彼女は瞼を動かし反応した。すると、声の主は益々激しく身体を揺さぶると声を掛け続けた。
「起きてよっ! キャロ!」
メアリーの声に反応して、キャロが目を覚ました。
「良かった、ずっと身動き一つしなかったから。ねえ、平気なの?」
目の焦点が合わないキャロの前でメアリーは手を振っていた。それと言うのも、彼女は十分近くキャロを起こそうと必死に声を掛け続けていたからだ。
「不思議な夢を見ていたわ。そこではライアスがいて……。美味しそうにお酒を呑んでいるの」
まだ寝ぼけているのか、キャロは額に指を当てると、寝ている間に見た夢の内容をメアリーに聞かせる。
「もう、寝ぼけてばかりなんだから」
心配の裏返しで、メアリーはキャロを睨みつけた。
「あなたが倒れたと聞いて、慌ててきたんだからね」
キャロが周囲を見回すと、周囲にいる人間たちからの視線を集めていた。
ここは魔道士たちが利用する魔法の練習場所で、描かれた魔法陣には魔力を少し回復させる効果と威力を増幅する効果がある。
「そっか、私特訓していて……」
ライアスと再会するためには、今や使い手のいない『仲間と合流する』魔法を覚える必要があった。
参考文献をあたり、自分なりに魔法の使い方を検討したキャロは、魔法を覚えるためにこの場で特訓をしていたのだ。
「少しずつ、見えてきている気がするのよ。今見ていた夢だって、彼との繋がりを伝って意識に流れてきたのかもしれない」
これまでも、キャロはライアスの夢を見ることがあったのだが、甘々しく声を掛けてきたり、最後に振り返ってどこかへ転移してしまったりと現実では見せない表情を浮かべていた。
その点、先程までキャロが夢で見ていたライアスは、これまで接してきた彼と似通っており、いかにも彼が口にしそうな言葉を吐いていた。
「そっか、いいな。夢を通してライアス君のことを知ることが出来るなんて」
ライアスがいなくなってから三カ月、その間にもメアリーの彼に対する想いは募っている。
メアリーの気持ちを知っているキャロは、夢の内容を思い出すと不機嫌になった。
「あいつ、女とデレデレしていたわよ」
「えっ?」
キャロの言葉に、メアリーは困惑した声を出す。
「獣人族のエロい恰好をした女を侍らせて酒を呑んでいたわ」
自分たちが苦労しているというのに、そんな様子をおくびにも出さず楽しそうにしている。思い出すだけで怒りが湧いてくる。
「そ、それは流石に夢でしょう? だって、獣人なんてこの世界に存在しているわけないし……」
ムカムカと怒りを浮かべているキャロにそう告げる。あまりにも真剣に怒っているので背筋を冷たい汗が伝った。
「まあ、そうなんだけどさ……」
実際に、ライアスが嬉しそうにしていたのが気に食わないキャロだが、あの顔をメアリーに伝えることはできないので、これ以上気持ちを解ってもらうのは不可能だろう。
「まあいいわ、さっさと魔法を覚えて連れて帰ってやるんだから」
特訓をし始めてから時々、おぼろげだがライアスと繋がっている感覚がある。
これまでの、生死不明の状況よりは断然ましだ。
後は、ライアスとの繋がりを太くしていき、彼の下に魔法で向かうだけ。
キャロは頬を張って意識をはっきりさせると、ふたたび魔法陣に乗って特訓しようとした。
「あまり無理をしちゃだめだよ! ライアス君のことも心配だけど、彼を迎えに行けるのはキャロだけなんだからっ! また倒れたらどうするの?」
目の前にいる女性が恋敵だと知らないメアリー。彼女は、キャロが単純に仲間思いで無理をしているのだと思っている。
キャロ自身も、先にライアスを好きになったのが目の前の親友である時点で、後ろめたさがあってか自分の想いを告げていない。
「わ、わかったわよ。今日のところは宿で休むことにするわ」
この場は離脱した方が良いと判断する。
「うん、それがいいよ」
聞き分けたキャロに、メアリーは笑顔を向けた。
「それより、トーリは一緒じゃないの?」
「トーリ君は今頃狩りをしているところかな? ちょうど良い依頼があったから向かってる最中だよ」
どうやら、予定通り資金集めに帆走しているらしい。
何せ、これからキャロが唱える魔法は多くの魔力を消耗する。肩代わりをする魔石がなければ成功することがないのだ。
「そっか、早くライアスをひっ捕まえてあいつも楽にしてあげないとね」
そのためには、一刻も早く魔法を習得する必要がある。
キャロは、もうじき魔法が使えるようになることを確信すると、ライアスと再会した時に何と話しかけるか想像し笑みを浮かべるのだった。
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