第29話 『便利』解放

「やあっ!」


 目の前では、キキョウが叩き込んだ攻撃でガーゴイルが破壊された。


 近くにあるコマイヌは俺がガードしているので、警報機も発動することがない。


「だいぶ、楽に倒せるようになってきましたね」


 迷宮二階に挑むようになってから五日間。籠りっきりになって昼夜問わず狩りをし続けていたお蔭で、俺も彼女もそれなりに実力が身についてきた。


「そうだな、俺の魔法も結構威力が上がってきたから後衛もできるようになったし、キキョウの攻撃力も上がっているから、どちらが前に出ても戦えるようになってきた」


 今ではその場で互いに判断して前衛・後衛を入れ替えるようになったので、柔軟に対応することができる。


「この調子ならそれほど時間が掛からずに三階への階段が見つかりそうです」


 確かな成長を実感しているキキョウは、自信ありげな態度を見せると先を促した。


「それはそうなんだけどな、ここらで一度、小屋に戻らないか?」


 だが、俺はそんな彼女のやる気に水を差す。


「どうしてですか?」


「迷宮内で休息をとれるとはいえ、たまにはきちんとした場所で休みたい」


 結界のお蔭で敵襲を気にせず迷宮内で休めるのだが、それでも少しずつ疲労が溜まっていく。わずかな差で判断が遅れてミスをしかねない。


「それに、結界のお蔭でずっと迷宮内で過ごしてるけど、元々そんな予定じゃなかったろ? 魔石と回復石の在庫も減ってきてるしな」


 かなり多めに持ってきているので、すぐに在庫切れになるということはないが、どちらにせよタイミングをみて補給に帰る必要があるだろう。


 俺は総合的な判断をキキョウに聞かせた。


「そうですね。確かに、たまには休息も必要でしょう。一度戻ることにしましょうか」


 キキョウはアゴに手を置くと、俺の提案を受け入れるのだった。





『残高105100ptです。継続してお売りいただけますか?』


 モノリスの買い取り査定を終了し、『いいえ』を押す。


『条件のクリアにより『便利』を解放します』


 今回、長期間籠ったお蔭で相当なドロップアイテムを得ることができた。


 きっちりキキョウと半々にわけて買い取りを行ったところ、上限を超えたようで何やら新しい販売アイテムが解放された。


・【記録石】 価格1000pt……場所を記録することができ、瞬時にその場所へと移動することができる。

・【脱出石】 価格1000pt……使うと瞬時に迷宮入り口に戻ることができる。

・【階層移動石】(5回) 価格1000pt……使うと行ったことのある階層の入り口に移動することができる。


「どうしたのですか?」


 俺が説明を読んでいると、キキョウが話し掛けてきた。


「いや、実は今回の買い取りで新たなアイテム販売が解放されたんだが……」


 俺は彼女にもわかるように、アイテムの効果と値段を読み上げてやった。


「凄いじゃないですか! 価格がちょっと高いかと思いますが、これがあれば往復の手間がなくなりますし、いつでも小屋に戻ってこられるじゃないですか」


 実際、二階から道を確認しながら戻ってくるまで丸一日かかっている。

 お互いに道を覚えておかなければならないので、進行も慎重にならざるを得ないのだが、これらのアイテムがある前提ならその手間も大幅に減らすことができる。


「となると、私の方にも何か新たなアイテムが追加される可能性が高そうですね」


 キキョウはそう言うと、楽しみなのか尻尾を振りながら箱にドロップアイテムを入れ、買い取りを行うのだった。


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