第28話 ライアスの魔法特訓

「どうかされたのですか、ライアス?」


「いや、名前を呼ばれた気がしたんだけどな?」


 妙に懐かしい声を聞いた気がするのだが、ここには俺とキキョウの他には高ランクのモンスターしかいないので、目の前にキキョウが口を開いていない以上は幻聴に違いない。


「あっ、また鬼蝙蝠がきました。いいですか、魔法で倒してください」


 先日、警報機の音に引き寄せられたせいか高ランクモンスターとの遭遇の合間に鬼蝙蝠が現れるようになった。


 倒しきらなかった分、迷宮内に散っているらしい。


「炎よっ!」


 俺はキキョウの言葉を聞くと、火属性剣を利用して魔法を放った。すべては彼女の「魔法と術は使うほど上達する」と言う推論を確かめるためだ。


「まだです。ライアスの魔法は威力も速度もありません、だからできる限り連続して撃ってください」


 そう言いつつキキョウは鬼蝙蝠が俺に接近できないように風の刃を飛ばし牽制しながら促してくる。


「このっ! くそっ! はっ!」


 連続して火の塊を撃ちだす。大きさも速度も足りないので、なかなか目標に当てることができない。


『キィッ! キィッ! キギィィィッ!』


 何発も撃ってようやく当てることができた。鬼蝙蝠が火だるまになり落下する。

 羽根が燃えやすいらしく、火をつけてしまえば飛行能力を奪えるのはありがたい。


 俺は地面でもがいている鬼蝙蝠に剣を突き差しとどめを刺す。


「ほら、先日より威力が上がっているでしょう? 魔法は使えば使う程に威力が上がるものなんです」


 確かに、先日の羽根を焦がすだけに比べて、撃ち落とすことができたのは威力が上がっている証拠だろう。


「せっかくなので、他の鬼蝙蝠はとどめまで魔法にしましょう」


「結構疲れてるんだが、中々厳しいな」


 そのくらいの方が上達が早いのだろう。俺は他に地面に落ちている鬼蝙蝠を火の弾で始末していく。

 倒すこと自体は簡単だが、大分疲れた。


「はい、お疲れ様です。それにしてもその剣は本当に便利ですね、火を剣身に纏わせて威力を上げることもできるし、本来魔法を使えない人間でも魔法を使えるようになるのですから」


 実際キキョウの言う通りだ。汎用性が高く、元住んでいた場所でも属性剣は超高額で取引されたり、あるいはオークションなどで売り出されていた。


 そんな貴重な属性剣が手軽に手に入るのだというのだから、この場所がどれだけ異様な迷宮なのかがわかる。


 俺は空間から魔石(小)を取り出すと魔力を回復させた。


「ふぅ、生き返る」


 これまで消費していた力が流れ込み、ホッと息を吐いた。

 使った分をその場で回復できるのは正直ありがたい。


「魔法を撃ち続けて、魔石で回復させる。とても贅沢な修行方法ですよそれ」


 どうやらキキョウの住んでいた場所にも魔石は存在していたらしく、高価とのことだ。


「魔法は使えば使う程威力が上がるのは伝えたとおりです。普通の人間は威力を上げるために毎日限界まで魔法を使って休息をとるのですが、このやり方でなら短期間で鍛えることもできますからね」


 その方法も、モノリスから魔石を購入できるからこそだ。

 鬼蝙蝠がドロップする牙は10ptしかないのだが、それなりの数を狩っているので、そこまで赤字にならない。


 これから、迷宮奥に進むと強力なモンスターと遭遇することもあり得るので、攻撃が通じる敵に使えるうちに威力を上げるのが正解だ。


「それにしても、魔法を撃つたびに疲れるのが結構きつい。魔石を持った状態で魔法を使えば肩代わりしてくれるはずなんだよな?」


 魔石の中には一定の魔力があるので、使い切るまでは身代わりになってくれるはず。俺はもしかすると、疲労しなくても良いのではないかと考えるのだが……。


「いえ、疲労する程に使えば魔力の最大値が上がると言われてますからね。魔石に肩代わりさせると魔力が増えません。ライアスはまだまだ魔力保有量が少ないようなので、たとえ疲労してもそちらの方が良いですよ」


 どうやらそこまで考えてこの特訓方法を提案しているらしい。


「このままずっと魔法を使い続ければ、威力も速度も上がります。そうすれば私が前衛でライアスが後衛になっても問題ありませんからね」


「そっちが目的じゃないのか?」


 俺はポジションを入れ替えようと目論むキキョウをじっとりとした目で見るのだった。

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