第27話 救出方法
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「結局、ライアスが消えてから一ヶ月、なんの成果も得られなかったな……」
トーリは頬杖をつくと、溜息を吐いた。
「ライアス君が転移させられた、ユグドラシルの迷宮とやらがどこにあるかわからなければどうにもなりません……」
国家をまたいで情報を集めているのだが、有力な手掛かりは何一つ存在しなかった。
「国も情報操作を始めたし、俺たちもずっとこのままというわけにもいかないだろうな」
最近では、国やギルドから新しいメンバーの補充をほのめかされている。
「それって、新しいメンバーを入れるつもりですか? ライアス君のかわりに?」
メアリーの視線が鋭くなり、トーリを睨みつける。
「俺だってあいつと一緒にやっていきたいさ。だが、今回メンバー入りを希望しているのはかの有名な剣聖なんだ。この件の口止めも含んでの人選だろうから、断ると叛意があるとみなされる可能性があるんだ」
剣聖ケイト。トーリたちと同世代でいち早く頭角を顕した探索者で、単独で迷宮に潜りながら著しい成果を上げている女性だ。
これまでソロで活動していた彼女が加入するとなれば、トーリたちのパーティーの今後の活躍は約束されたも同然だ。
「だからって、トーリ君はライアス君に逢えなくなっても平気なのですか? 国も段々と調査を縮小しています。私たちが探さなければ、彼は脱出不可能なユグドラシルの迷宮で命を落としてしまうかもしれません!」
「そうは言っていないだろっ! これまでずっとこの四人でやってきたんだ。だが、ライアスを捜索しようにもこの一ヶ月パーティーの運用資金を消費してしまっている。このままだと遠くない内に活動ができなくなるんだよ」
トーリにとってもライアスは大切な親友だ。これまで手掛かりを得るために様々な書物や伝説の地を調査して活動資金を費やしたのは、どうにかしてライアスを救い出したかったからというのが大きい。
この場の全員がライアスの安否を心配しているのだが、それぞれの立場ゆえに言い争ってしまっている。
トーリとメアリーが答えの出ない問答を続ける中、ずっと黙り込んでいたキャロが口を開いた。
「一つだけ、方法があるわよ」
二人の視線がキャロへと向く。
「何だって? 国がいくら調査しても駄目だったのに、ライアスを見つける方法を思いついたのか?」
「それってどういう方法なの、キャロ。私にできることなら何でもしますから、教えてください!」
二人はキャロへと詰め寄った。
「以前、国の調査の時に話に出たでしょう。『仲間の下に合流する魔法』があるって、あれを私が習得すれば、ライアスの下へと飛ぶことができるわ」
ライアスが転移した後で、宮廷魔道士が文献を調べつくした際に可能性の一つとして提示された魔法。
この魔法は、迷宮などで仲間と離れた際に合流することが出来る魔法なのだが、距離が離れれば離れるほど魔力の消耗が激しくなると言われている。
「確かに、この魔法なら何とかなるかもしれない……」
キャロの説明にメアリーは希望を見出した。
「俺たちに出来ることはないか?」
トーリが質問をすると、
「私は今からこの魔法を習得するために修行に入る。その間、二人には幾つかアイテムを集めてきて欲しいの」
「それはどんなアイテムだ?」
「ライアスがどれだけ遠くにいるかわからないので、魔法を成功させるには膨大な魔力が必要になるの。だから二人には魔石を集めて欲しい」
魔石とは魔法を使う際の魔力を肩代わりしてくれるアイテムなのだが、迷宮の宝箱から稀に出現することから高額で取引されている。
「それは……相当な金額が必要になるぞ」
魔石は小さなものでも金貨一枚が必要となる。
ライアスがどこにいるかわからない以上、魔法を成功させるためにはなるべく多くの魔石がなければならない。
トーリがそのことを懸念して躊躇していると……。
「やりましょう、トーリ君」
「メアリー」
「他に方法がないんです。キャロなら、確実にライアス君のところまで辿り着けます。これは私たちにしかできない捜索方法なんですよ」
あきらめるしかなかった状態から、キャロは確かな希望を示して見せた。
勿論、伝説の魔法を習得するというのは途方もない努力が必要になるのだが、これまで一緒に行動をしてきてたメアリーは、キャロがやり遂げると確信している。
「そうだな、俺たちは魔石を買うための資金作りだ。言っとくけど、魔石が足りなくなったら困るから、いよいよ作戦を実行する時には俺たちの装備を売り払うからな。戻ってきたらあいつと再スタートになるからこき使ってやる」
「勿論よ。私が絶対にあいつを連れ戻す。そして……」
キャロは途中で頬を赤らめると言葉を止めた。
「待っていてね、ライアス君。私たちが必ず助けてあげるから」
方針を決めた三人は、ライアスを救出するため、すべてを費やして準備を進めるのだった。
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