第26話 モンスターに囲まれた朝食

「ん……もう朝か?」


 明るくなってきたので目を開けると、離れた場所に鬼蝙蝠の姿を見て一瞬で意識が覚醒する。


 天井に逆さ吊りになっていたり、相変わらず結界にへばりついていたりするのだが、寝ている間に数が減ったのか隙間ができており、洞窟の壁の明りが差し込んでいる。


 その明かりのせいで目覚めたのだが、迷宮内で本当によく眠れたものだと、自分の適応力にあきれてしまう。


 身体に力を入れてみる。


 半日寝たので身体もすっかり回復している。先日魔法を使った疲労も抜けているので、戦闘に支障はなさそうだ。


「うぅ……ん」


 横を見ると、キキョウが抱き着いている。


 彼女は寝ていると近くのものに抱き着く癖があるのはここ数週間で理解している。


 互いに身を寄せ、彼女の温もりを感じていることで快眠していたのだと気付いた。


 普段、小屋で寝るときは布団があるので、朝目覚めた時には布団を抱いているのだが、流石にモンスターが溢れる迷宮内ともなると、そこまで寛ぐこともできず、地面に敷物をして横になる程度だったので、俺を抱き枕に選んだようだ。


「キキョウ、そろそろ起きろ」


 俺は彼女の肩をゆすって起こす。


「うううっ……もう朝でしょうか?」


 キキョウは瞼をこすると欠伸をした。


「よく眠っていたな」


 周囲ではいまだに「キィキィ」鬼蝙蝠が鳴いている。そんな中、欠伸までするキキョウはどれだけリラックスしているのだろう……。


 彼女の豪胆さを見習うべきか?


「結界の力は絶対ですから。一階でも試したじゃないですか」


 キキョウの言う通り、正確に結界の力を測るために実験をしていたが、一階のモンスターがどれだけ攻撃をしてきてもびくともしなかった。


「ライアス、まずは食事にしましょう」


 はだけた装束を直すと食糧を要求をしてくる。俺は無限収納の腕輪から亜空間を開くと二人分の食事を用意した。


「やはり朝はしっかり食べないといけませんね」


 結界の外の鬼蝙蝠をまったく気にすることなく美味しそうに食事を摂る。

 キキョウの様子につられ、俺も食事に集中して彼女と会話を続ける。


 普段よりもじっくりと時間を掛けて食事をし、食べ終えた後も装備の点検に回復アイテムの整理をしてのんびりした時間を過ごした。


 それから半日程が経ち、外にいる鬼蝙蝠の数がまばらになっているのを確認すると、俺はキキョウと目を合わせ頷いた。


「それじゃあ、結界をときます」


 体力も回復し、万全の状態で敵を迎え撃てる。


「ああ、頼んだ!」


 キキョウが結界を解くと、張り付いて寝ていた鬼蝙蝠が何匹も地面へと落ちる。


 俺とキキョウは即座に飛び出すと、完全に油断していた鬼蝙蝠たちを次々に斬り伏せていく。

 中には完全に眠りこけているモンスターもいるので、音を立てず静かに立ち回った。


 結局、ものの五分ほどで全ての鬼蝙蝠を倒した俺たちは、ドロップアイテムを回収すると一呼吸吐く。


「今後も、危なくなったら結界を張ることでどうにかなりそうだな?」


 キキョウの特典のお蔭で、迷宮での生存確率が格段に高くなったことを喜ぶと、俺たちは先へと進むのだった。

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