第30話 キキョウの『便利』解放

「残高102900pt! 私の方も販売品が追加されました!」


「ちょっと待ってくれ、何が出たかメモするから!」


 俺は紙を取り出すと、キキョウが購入できるアイテムを教えてもらう。


・【ランダムテレポーテーションの巻物】(5回) 価格2000pt……使用すると同じ階層の違う場所に転移する。

・【ストレングスアップの巻物】(5回) 価格2000pt……筋力を30分間アップしてくれる。

・【スピードアップの巻物】(5回) 価格2000pt……敏捷度を30分間アップしてくれる。

・【スタミナアップの巻物】(5回) 価格2000pt……体力を30分間アップしてくれる。

・【マジックアップの巻物】(5回) 価格2000pt……魔力を30分間アップしてくれる。

・【マインドアップの巻物】(5回) 価格2000pt……精神力を30分間アップしてくれる。

・【デックスアップの巻物】(5回) 価格2000pt……器用さを30分間アップしてくれる。


「以上です」


 俺はメモを読み返してみる。キキョウが買うことが出来るこれらのアイテムを見て眉を寄せた。


「どうされたのですか?」


 キキョウは俺の顔を覗き込んで来た。


「いや、これも強力なアイテムだなと思って」


 これらの効果については良く知っている。普段メアリーから受けていた支援魔法そのものだからだ。


「フルで使用すれば相当な戦闘力アップが見込めるけど、価格を考えるとあまり多様するものでもないな」


 何せ、説明を見る限りこのアイテムは消耗品だ。五度も使用すればなくなってしまう。

 効果は確かだが、それにしたってこれまでのアイテムに比べて高い。現状では積極的に使いたいと思わない。


「そうですね、これまで、無理な戦闘をしていませんので、余程の強敵に出会った場合のみ使うのが良いかと思います」


 キキョウも俺と同じ考えらしい。


「もっとも、強敵に出会ったならこっちを使った方が良いかもしれないけどな」


 先日までは、結界で防ぐ方法しかなかったが、今回解放された中には、強敵から逃げるのにうってつけのアイテムが販売されている。


 俺が指差したのは『ランダムテレポーテーションの巻物』だ。これの効果が正しければ、ランダムで階層のどこかへと転移することができるらしい。


 余程厄介な相手だったり、危険を感じた場合に使えば戦闘から離脱することができる。

 仮にはぐれた場合でも、俺の方で購入できるアイテムの『脱出石』か『階層移動石』を使って一つ下の階で待ち合わせすれば合流も容易というわけだ。


「私の方で販売するアイテムだけでは不完全ですが、ライアスが購入できるアイテムと組み合わせると色々なことができそうですね」


 キキョウは「なるほど」と納得してみせた。

 俺とキキョウそれぞれの販売アイテムが違うお蔭で、様々なパターンに対応することができる。


 ここに俺たちをいざなった存在は、そこまで計算していたのだろうか?

 もし仮に、ここに三人目が現れたとして、そいつにはまた別な販売アイテムがよういされているのだろうか?


 一度考えると、次々に疑問が浮かんでくる。


「ライアス、どうかしましたか?」


 だが、いくら考えても栓なきことだ。現時点でこの場にいるのは俺とキキョウだけだし、手持ちのアイテムを有効活用するしかない。


「ひとまずは、これらも一度使ってみた方が良いだろう。明日からは実験も兼ねて一階を回ることにするか」


 いざというときに使えなかったり、使ってみた時の効果を誤解している可能性もある。

 俺はキキョウにそう提案すると……。


「そうですね、このアイテムがあるなら攻略も容易になります。ライアスの魔法をもっと鍛えてから奥に進んだ方が効率的でしょうから」


 ニコリと微笑むと、冗談めかして告げてきた。


「抜かせ! そっちの前衛もまだまだ甘い」


 お互いに軽口を言い合い笑いあう。


 出会ってまだそれ程日が経っていないのだが、苦楽をともにしているせいか完全に打ち解けている。


「とりあえず、折角の外なので、今夜は一杯どうですか?」


 迷宮内では禁酒をしていたからか、キキョウは右手でコップを持つ仕草をすると酒を呑む提案をしてきた。


「そうだな、キキョウがそこまで言うのなら、付き合うよ」


 俺はそう答えると、酒樽を取り出すのだった。

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