第9話 ライアスの行方について

「どうにか今日は無事に終わったな……」


 肩をとんとんと叩いて息を吐く。体力については、放っておくと辛いので『回復石(小)』を使って治しているのだが、何度も疲労したせいで、精神的疲労れが溜まっている。


「こればかりは慣れないといけないな」


 この先もこの戦闘スタイルを続けるつもりなら、落差に慣れておくしかない。


「でも、そのお蔭でこれだけ手に入った」


 あの後戦闘したのはリザードマンウォーリア2匹、レッドベア1匹、ゴブリンスカウト3匹だった。


 リザードマンウォーリアは剣とプロテクターを落とし、レッドベアは何も落とさない。ゴブリンスカウトは短剣を落とした。


「今日使った回復石(小)が8個。一応リザードマンウォーリアのドロップだけでも黒字だな……」


 俺はモノリスの『買い取り』に触れると、ドロップアイテムを箱に放り込んだ。


『残高3710ptです。継続してお売りいただけますか?』


「よしっ!」


 ゴブリンスカウトの短剣も300ptで売れるらしい。本日の狩りは完全に黒字となった。


「明日以降もこの調子でいけば、いずれは武器とか防具も揃えられるに違いない」


『スペシャル』にある聖剣エクスカリバーなどに届くためには途方もない数をこなす必要があるが、ptを増やせるというのは、他に差し出す物がなかった俺にとって最高の結果だ。


 ようやく見えてきた明るい兆しに、俺は安心するとコップに酒を注ぎ、晩飯を食べると深い眠りに落ちるのだった。



          ★


 ライアスが転移してしまってから二週間が経過すると、事件は大々的に取り扱われ、問題は国中に広がっていた。


 それというのも、ライアスが消えたのはモノリスを利用している時間帯で、多くの目撃者がいたからだ。


 この二週間、問題が起こったモノリスの使用は制限され、国が厳重な警備体制を敷いている。


 そんな中、国の宮廷魔道士たちは文献をひっくり返し、今回の事件の調査を行っていた。


「それでは、今回の事件について、我々の考えを述べたいと思います」


 城の会議室には、事件を調べていた宮廷魔道士、当日の警備の兵士、他にはトーリとキャロとメアリー。ライアスの仲間が呼ばれていた。


「まず、今回事件が起こった経緯ですが、失踪したライアスはCランク探索者。モノリスを利用したのは『成長限界』に達し、クラスチェンジをおこなうためでした」


「そうです、俺たちパーティーであいつだけ半年遅れで『成長限界』に達したんです。元々『成長限界』が遅い人間は希少ジョブを得る可能性があった。そのジョブのせいであいつはあの場から消えたんじゃないですか?」


 トーリは自分たちが出した結論を宮廷魔道士に伝える。


「おそらく、それはないかと。我々、宮廷魔道士も希少ジョブが扱えるスキルや魔法について調べ尽くしました。中には『仲間の下に合流する魔法』なんてものもあり、それを使ったのではないかと推測が立ちますが、ジョブを得たばかりの人間がすぐに扱える魔法でもなければ、仲間であるあなた方は後方に待機していた」


 つまり、この魔法で消えたというのは否定される。


「だったら、どうしてっ! 私たちはずっとライアス君を見ていましたっ! 本当に瞬きするほどの間に消えてしまったんです! それまでの間、彼は呪文の詠唱はおろか、スキルを使う動きもしていません! ただ、モノリスに触れていただけですっ!」


 メアリーが当時の状況を繰り返し伝える。


「我が国では今回が初めてになりますが、他国に確認したところ、この1000年で似たような失踪が3回記録されていました」


「それって……ライアス以外にも犠牲者がいたってこと?」


 キャロの問いかけに宮廷魔道士は頷く。


「いずれも目撃者がおりましたが、今回と同じようにモノリスでクラスチェンジをしていた際に消えてしまったということです」


「つまり……クラスチェンジの際に得られるジョブの中に、本人を強制的に連れ去ってしまうものがある?」


 トーリの答えはこの場の全員にとっておそろしいものだった。


 これまで、世界中の人間がモノリスを利用し、便利に使ってきたのだが、そのような話が広まると、誰も安心してモノリスを使えなくなる。


「言うまでもありませんが、モノリスはかつて反映した文明が残したもので、国や生活を支えています。使わないようにするという選択肢はあり得ません」


「ライアスがいなくなったんですよ? 他に犠牲が出るのを待つつもりですか?」


 国としても苦渋の選択になる。これまで数人の失踪がありながら、その情報が民衆に広まっていないのは、時間が経つにつてれ風化したというのもあるが、それだけモノリスが便利だからだ。


「それじゃあ、ライアス君がどこに行ってしまったのか、結局わからないということですか?」


 メアリーは胸元で両手を組むとギュッと拳を握る。


「その件についてですが、他国にはない情報が一つあります」


 皆がその情報に注目する。


「実は、今から100年前、我が国の王族の一人が、公式行事でクラスチェンジをおこなうためモノリスに立ったことがございます。知っての通り、王族がクラスチェンジをおこなう際、見物人は離れて行ないますが、後世に記録を残すため少数の人間が立ち会い、一緒に確認することになっています」


 王族は『成長限界』をむかえると一人前と認められ、そのクラスチェンジは国を上げての祭りとなる。


「実はその100年前のクラスチェンジの時、異変が起きていたのです」


「それは……どんな?」


 ゴクリと喉を鳴らす。


「普段出るはずのメッセージとはまったく異なるメッセージが出たのですよ」


「モノリスにでたそのメッセージとは?」


 皆が黙り込み、宮廷魔道士の言葉に注目する。


「その記録にはこうあります『『成長限界』の確認をしました。ユグドラシルへの転移を行いますがよろしいですか?』と……」


 その場の全員が息を呑むのだった。

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