第8話 アイデア

「さて、もう一度行くとするか……」


 あれから、食事をして昼寝をして休憩を終えた俺は、ふたたび迷宮に潜ることにした。


「はっ! やっ! ほっ!」


 剣を振り回して見るが、先程と同じようには振ることができない。


 今まで通りか、少し鋭い程度の動きだ。身体も発光していないので、この状態を通常とする。


 迷宮の中に入り、先程と同じわかれ道に到達したので、逆の方向を選択する。


 不意打ちだけは受けないように、警戒しながら歩いているとモンスターが現れた。


「ゴアアアアアアアアアアッ!」


「今度は『レッドベア』か……」


 先程のリザードマンウォーリアと同じくDランクモンスターで、力は強いのだが動きが鈍く、以前戦った時はキャロの魔法で遠くから倒していた。


「きたっ!」


 戦闘を意識すると身体が白く輝きだす。


 力が溢れ、相手の動きが遅くなる。今の俺にはトーリ並の力があるのではなかろうか?


「ゴアアアアアアアアアアッ!」


 襲い掛かってくるレッドベア。四肢を走らせ地面を蹴り、俺に迫る。

 この突進が厄介で、こちらが動くとそれを察知して方向を変えているのが見て取れる。


 最後の一蹴りで避ける間を与えずに俺を噛み殺しにくるつもりなのだろう。


 次第に接近してきて、次の跳躍でレッドベアが襲い掛かるというところで……。


「いまだ!」


 俺は逆に加速して、レッドベアとの距離を詰めると、


「ゴアッ! アアアアアア! アアアアッ!」


 剣をレッドベアの胸へと突き刺した。


 俺は剣を抜くと、痛みで暴れ回るレッドベアから距離を置く。そして立ち直る時間を与えることなく、背後に回り込む。


「これで、お終いだ!」


 両手で剣を持つと、レッドベアの首筋を狙って振り下ろす。手に嫌な感触が伝わり、


「ゴ……ア……ア……」


 レッドベアは絶命した。


「ふぅ、違う種類のモンスターで焦ったけど、戦闘経験があってよかった」


 偶然かもしれないが、現れたモンスターはどちらもDランク。


 トーリを含む俺たちパーティーはここ一年ほどCランクの依頼ばかり受けていたので、幸運にもこれらのモンスターとの対戦経験が活かせたということだ。


「くっ、疲労がきやがったな……」


 先程よりも激しい疲労が全身を襲う。もし今、他のモンスターが現れた場合、俺は戦うこともできずに殺されてしまうだろう。だけど……。


「これがあれば大丈夫なはずなんだ」


 次の瞬間、黄色い光が俺の全身を覆った。


「流石は『回復石』完全に体力が元通りだ」


 俺の持つスキルは戦闘時になると一時的に身体能力を引き上げ、終了すると体力をごっそり消費するものらしい。


 本来ならそれで打ち止めになり、撤退しなければならないところなのだが、幸運なことに小屋でポイントと交換できるアイテムの中に『回復石』というレアアイテムがある。


 高額な上、数が出回らないので余程の怪我をしなければ使わないこのアイテムだが、小屋で入手する場合は格安となっているので、大量に保有することができる。


 先程のリザードマンウォーリア戦で残ったアイテムをポイントに変換したところ500ptになったので、モンスターがドロップすれば消費した以上のポイントを得られはず。


「今の俺だとAランクモンスターは無理っぽいけど、Dランクモンスターは確実に倒せる」


 勿論、この正体不明のスキルありきでの話なのだが、これで二度目の発動だ。戦闘に入れば俺の意思で発動させることができるようだ。


「後は、この行動をどれだけ続けられるかどうか……」


 ポイントを溜め、回復石や料理に水などを腕輪へと収納する。

 そうやってコツコツ迷宮を攻略していけば、いずれ何か手掛かりが得られるかもしれない。


 そうこうしている間に、レッドベアの死体が迷宮に吸い込まれていった。


「まあ、そんなに都合よくはいかないか?」


 そう言いつつ、少し不安になった。今回のレッドベアは何も残さなかったからだ。


 最初のリザードマンウォーリアが特別だったのか、レッドベアが特別だったのか、それにより今後の計画を修正する必要がある。


「とりあえず、今持っている『回復石(小)』は10個。この辺を見回って、半分になったところで戻ることにするか」


 今は、少しずつでも検証を続けていくべきだろう。


 決して無理はしない。そう自分に言い聞かせると、俺は気を引き締め、迷宮探索を進めるのだった。

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