第7話 リザードマンウォーリア

 目の前で叫び声を上げて威嚇しているのは緑の身体にプロテクターを身に着け、剣を手に持つモンスターだ。

 名前をリザードマンウォーリアと言い、武器を振り回し攻撃を盾で受け止める厄介な相手だ。


 以前、俺は何度か違う迷宮でこいつと戦ったことがある。

 その時は、意外と素早い動きと、力任せに剣を振るわれたお蔭で、隙を見つけて攻撃するのに苦労したものだ。


 どうやって倒したのかというと、メアリーに支援魔法をもらって身体強化を行い、キャロが隙をついて魔法で気を逸らしてくれたので、そちらに気をとられている隙に横から攻撃したのだが、それでもしぶとく最後まで抵抗された。


「何とか倒せるか?」


 あの時よりも今の俺は成長しているはず。このくらいならどうにかできると判断すると、覚悟を決め剣を握り直した。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 まず威嚇して、その声が途切れ呼吸を溜めた瞬間、リザードマンウォーリアは突撃してきた。


 やつが腕を振り上げ俺めがけて振り下ろしてくるのがはっきり見える。

 剣を避け、懐に飛び込む。


 このチャンスをでダメージを与えなければ、次に攻撃を受けるのは俺になるかもしれない。


 俺は、集中して剣を振ると……。


「はっ!」


リザードマンウォーリアの胴を…………ぶった斬った。


「はああああああああああっ?」


 目の前には胴をぶった斬られて身体が二つにわかれたリザードマンウォーリアの死体が転がっていた。


 やったのは俺なのだが、何が何だかわからない。

 ふと気が付く、自分の身体が白く発光していることに気付いた。


「この光……。メアリーの支援魔法の色に似ているな?」


 彼女は治癒魔法だけでなく、それよりも希少とされる支援魔法を扱うことができ、掛けてもらった時は一瞬このように身体が光ったのを思い出す。


 だけど、ここにメアリーはいないし、ずっと輝き続けているというのもおかしい。


「あっ、消えた?」


 気が付くと発光が収まっていた。


「うっ……なんだ……急に?」


 輝きが消えると同時に疲労が全身に押し寄せる。


 今の光と無関係とは思えない。


「はぁはぁ、ひとまず休憩するか」


 腰を下ろすと、空間から水樽を取り出し、水分補給をした。


「今の戦闘、なんだったんだろう?」


 急に力が湧きだしたかと思えば、リザードマンウォーリアを一撃で斬り裂いた。

 あの時の力は、メアリーにもらった支援魔法以上の威力だった。


「もしかして、クラスチェンジの力だろうか?」


 そう考えると納得がいく。転移される直前、俺はクラスチェンジの儀式を行っていた。


 ここにあるモノリスはその情報を見せてくれないが、確認してみたら上位ジョブになっている可能性がある。


「上位ジョブのスキルが発動して、俺の身体能力が高まった。戦闘が終わると同時に疲労が発生したのは、このスキルのペナルティ?」


 強力なスキルには反動があることが多い。俺のスキルは戦闘時に一時的に能力が増すが、その分戦闘が終わると疲労してしまうということであるなら、今の状況の説明もつく。


「しかし、一匹倒してこれとは……」


 リザードマンウォーリアを退けられたのは良かったが、まるで一日戦い続けたかのような疲労具合だ。これでは継続して戦うのは不可能だろう。


「ひとまず、今日はここまでにしておくか……」


 死体が迷宮に吸収されて、剣とプロテクターのみが地面に落ちている。

 俺は二つのアイテムを回収すると、迷宮から引き上げた。





「戻る途中、モンスターと遭遇しなくてよかった……」


 もし今後も今のスタイルを続けるなら、深入りせずに浅い場所を探索することになるだろう。


「そうだ、もしかしてリザードマンウォーリアの剣とプロテクター買い取ってもらえるんじゃないか?」


 モノリスは『買い取り・購入』と言っていた。それならば金貨でなくても装備品を買ってもらえるのではないかと考えたのだ。


 剣とプロテクターを入れて『買い取り』を押して様子を見る。


『残高1810ptです。継続してお売りいただけますか?』


 確か、最後に取引をした時には1310ptまで減っていたはず。それが1810ptになったということは今の装備の買い取り額は500ptということになる。


 その時、俺は閃いた。


「もし、迷宮に出てくるのがリザードマンウォーリアばかりで、同じように装備を落とすなら……」


 ずっと戦い続けることも可能かもしれない?

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