第6話 戻ってきた
見覚えのある目印を発見する。
俺が絶壁に到達したときにつけたものだ。
「ってことは……一周したんだな?」
あれから、途中、川で水を補充したり、森で動物を狩ったり、木から果物を収穫して食糧を自給しながら調査して回っていた俺だが、どうやら元の場所まで戻ってきてしまったらしい。
「結局、ほとんど何もわからなかったな?」
なぜ俺が転移させられたのか、ここがどこなのか?
調査に時間を掛けたわりには収穫が少なかった。
「だが、少なくとも食糧を確保できるとわかった」
モンスターは見当たらなかったが、動物も水源も植物も発見した。
トーリたちもきっと、俺を探してくれているはず。
ここで生き抜くだけならば何とかなりそうな気がした。
俺は記憶を呼び起こし、地面に描く。
ここまでの道中で何があったかも含め思い出すと、
「こんな感じか?」
どうやらここは外界と完全に隔離された場所らしい。
外周部には絶壁があり、空でも飛べなければ乗り越えることができない。
川の水は外部から流れ込んできて、別な外周に抜けている。外に抜ける川に飛び込んで脱出するか一瞬考えるが、外壁がどれだけ続いているかわからないし、そんな一発勝負をするような切羽詰まった状況でもない。
中心に巨木があり、その周辺を森が囲み、その後平原になり、外壁に至る。
この場所の構造は巨木を中心とした円の形をしているようだ。
「ひとまず……小屋へと戻るか」
俺はそう結論付けると、小屋を目指すのだった。
「やっと、戻ってきたな……」
小屋を見た瞬間安心してしまい、足の力が抜ける。
今回の調査で食糧と水に問題がないことを発見したが、それでも小屋があるというのは安心できる。
ここならば屋根があるのでゆっくり休むこともできるし、ptと引き換えに水が手に入る。
俺は中に入ると横になった。
「さて、これからどうするかな?」
この場所の周辺調査は完了した。
脱出は不可能で、水・食糧ともに豊富だ。
生きていくだけならば問題はないが、この先ずっとこのままというわけにはいかない。
状況が停滞すると、いずれなんらかのトラブルが起きた時にすべてが破綻するだろう。
そう考えると迷宮に潜るしかない。
眉根をよせ考える。
一応、俺もトーリと一緒になってモンスターと戦っていたので、戦闘経験はある。
だが、メアリーの支援がなかったり、キャロの援護がなかったり、トーリが肩をならべてくれるわけでもない。
そこが不安要素となるのだが……。
「そういえば『回復石』はあるんだったな……」
その代わりと言っては何だが『回復石』があるので、即死しなければ傷を負ってもなんとかなる。
「あとは、一応これも使えるよな?」
俺は腕輪に入れてある【ある物】を見る。効果の程は試してあるし、迷宮なら使えるだろう。
「今日は休んで、明日になったら迷宮に入ってみるか……」
その日は、小屋に戻ったということもあり、初めて酒樽を出すと酒に酔ってそのまま眠るのだった。
「さて、早速迷宮に入るとするか……」
十分な睡眠をとり、身を清めて、武器と防具を身に着ける。
これから迷宮に入るかと思うと、高揚し、俺は身震いをした。
「とりあえず、今回の目的は迷宮の調査だ。無理はせず怪我をしないように立ち回ろう」
元々、パーティー内でも、偵察は俺の担当だった。
なので、迷宮の立ち回りには自信があり、ある程度なら安全を確保できると思う。
俺は気を引き締めると、迷宮に足を踏み入れた。
「ここは、木の中なんだよな?」
中に入ると、薄暗いながらも壁が発光している。
天井の高さは数メートル程で、幅にも余裕がある。
途中、道が別れていたり、するのだが、そこまで入り組んでいるわけではないので、目印を付けながら進めば間違えることはないだろう。
巨木の中という話だが、外周を回る時にも確認したが、この巨木の大きさは異常だ。
おそらくだが、街一つが入るほどの大きさを有している。
もしこの迷宮が巨木の大きさの分だけ広いとなると、中の探索だけで一体どれだけの時間がかかるのだろうか?
そんなことを考えていると……。
「ははは、やっぱり本当に迷宮だったんだな」
「ジャアアアアアアアアアアッ!」
目の前にモンスターが現れた。
「初遭遇のモンスターがこれとは……。俺ってもしかして運が悪い?」
なぜなら現れたのは、ランクDモンスターのリザードマンウォーリアだったからだ。
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