2022年11月11日_音楽と偏見を愛して

 私は音楽を聴くことが好きだ。

 なにかを好きと宣言するのを憚らないタチなのでハッキリというが、音楽を聴くことが好きだ。なんなら歌うのも好きだ。

 AppleMusicに加入していて、毎月千円の納税をしながらモチュモチュと音楽を聴いている。

 このアプリには便利な機能が色々あるが、そのうちの一つに「年間通してよく聴いた曲たちを集めてプレイリストを自動作成する」というものがある。

 それを見ればなにに狂った一年なのかが分かるということだ。

 音楽趣味の合う友人たちのグループLINEが盛り上がるなか、ひとりが面白いリンクを貼ってきた。

 アーティスト別の総再生時間と曲ごとの総再生回数を表示できるというものらしい。ちゃんとAppleMusicの機能だった。

 アーティスト別でみると上から順に、People In The Box、BUMP OF CHICKEN、Porter Robinson、サカナクション……となっていた。

 曲ごとの再生回数では、POPSONG(米津玄師)、GRIND(Gyoson)、M八七(米津玄師)、ETA(米津玄師)、アカシア(BUMP OF CHICKEN)、さよならクレール(中村佳穂)、一途(King Gnu)、Having a Headache(No Buses)……となっている。

 二つのランキングが同じ並びになっていないのが面白い。

 曲ごとで見ればPeople In The Boxは入っていないし、アーティスト別で見ると米津玄師はランクインしていない。

 アーティストのアルバムやプレイリストを流しているのか、その曲だけ聴きまくっているのかの違いみたいなものが現れているのかもしれない。

 その違いは面白かったけれど、ランキングは納得できる範疇だった。


 で、で、で。

 ここまでは実はどうでも良くって。本題はここから。

 先述のリンク、今年聴いたアーティストの人数も表示してくれるようになってたんですよ。

 友だちは474組のアーティストの曲を聴いてて、いやすげえなと思ったんですよね。500近いアーティストの曲を聴くことあります?

 一日一組聴いても追いつかん。

 で、私はどうなんだろうと思って見てみたら。

 1357でした。

 は?

 1357組のアーティストの曲を聴いていたということです。もちろんもっと聴き漁っている人はたくさんいると思うんだけど。

 私的にはこの数字がかなりショックで。

 すんげ~たくさん聴いてる! ってことじゃなくて。

 こんだけ色んなのを聴いても個人的ランキングに入るのはいつものメンツなんだなって事実に脱力した。

 新しい刺激を受けずに内側に閉じこもることが嫌で色んなアーティストを聴いてきたつもりではあった。

 トルコのランキングとか、イスラエルのオルタナティブとか、タイのポップスのプレイリストも漁った。洋楽ももちろん。

 新鮮な気持ちで聴けることも、妙な親しみを覚えることもあった。びびっと来たものは自作のプレイリストに入れたし、聞いてもいる。

 それが1357という数字に表れていると思った。

 でもランキングを見れば、結局のところ自分の好みというバイアスからは全然逃れられていないんだなって。

 それが数字に表れていた。

 自分探しに海外旅行をしたのに何にも変わっていない自分を見つめるときの気持ちっていうのはこういう感じなんだろうか。


 すごくいろんな要素が絡んでいるとは思う。

 その年ごとに、気に入った曲をまとめてぶちこんでいるプレイリストがあるんだけれど、プレイリスト通しての効き心地までは考えられていないから結果的にいつも同じのに手が伸びてしまう、とか。

 AppleMusicでアーティストの一覧がずらっと並びすぎてなにを聴こうか迷ってしまい、いつものとこに指が走った経験があるな、とか。

 執筆中にはメンタルを一貫させたくて同じアーティストで縛ってるから、とか。

 でも数字を見れば自分の趣味趣向が如実に表れてしまっているのがまるわかりだ。


 すこし冷静になってみる。

 私が、視野が狭まらないようにと手を伸ばしたことは無駄だろうか?

 まず一つ。

 同じ曲であっても聴き方が毎回同じなわけではない。実際、ライブに行って解釈が変わった曲がある。それらを回数のみで判断はできない。これは事実だ。

 そしてもう一つ。

 たくさん聴くから好きなのか、たまにしか聴かないから好きじゃないのか、というと違うと思う。

 気分が沈んだ時だけ聴きたい音楽がある。気分を上げたいときだけ聴きたい音楽がある。昔を思い出したくて聴く音楽もある。家事をするときに聴く音楽がある。

「数字では測れないものが~……」みたいな感情賛美を口にするつもりはないが、いまのところAppleMusicの機能ではそのへんの機微を正確にとらえて集計することには向いていない。これも事実だ。

 さらに一つ。

 今年出会えて聴き惚れたアーティストはいくらか存在している。それらの音楽が私の耳に新しい刺激をくれた。ランキング入りしているNo Busesは今年出会ったアーティストだし、中村佳穂もかつて手を伸ばした中にいた一人。これも事実だ。

 加えてもう一つ。

 そもそも偏りを持つことは自然なことじゃないだろうか。自我を形成している最中の子供じゃあるまいし、趣味趣向がある程度固まっているのは道理だ。ある程度の年齢になれば、物の考え方、好み、世界の見え方、そういうものが定まってくる。そしてそれ自体は悪いことではない。昨日と今日とで考えていることが違う人間の方が怖いじゃん。

 とはいえ、やっぱり偏りに甘んじてはいけないとも思う。だって広く知っていないと他者に優しくなれないよ。無理解は断絶を生むし、断絶は争いを生む。争いを防ぐ第一歩は相手に興味を持つことだと思うから。

 それに色んな可能性を探ることで新しい偏り方を見つけることだってできるかもしれない。

 必要なのは、色んなものを見たうえで自分なりに偏ることではないだろうか。

 必要なのは、偏りを自覚していることではないだろうか。

 安心してどんどん偏っていこうな。


 まあ、そうやって自分がやっていることは無駄じゃないって思いたいだけかもしれないけど!




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