『出会い』

 目が覚める――。


 今までの自由気ままな生活では感じ得なかった暖かい気分と共に視界に光が満ちた。


 それは新しい人間と出会い、結ばれたことの証明。


 この世界に無数に存在する妖精の中かから選ばれた、とても嬉しくて胸がいっぱいになる、そんな瞬間。


 視界から光が消えると、わたしの目には不思議そうな顔をした人間の男の子の顔が映る。


 そう。今からこの人がわたしのパートナー。


 これからこのパートナーが生命を全うするまで、わたしはどのような物語をこの人と共に過ごして行くことになるのだろう?


「初めまして人間さん。わたしはリリィ。あなたのパートナーになる妖精だよ」


「りりぃ? ぱーとなー?」


「うん、これからずっとあなたと一緒に長い時間を過ごしていくことになる存在、パートナー」


 きっと男の子にはまだパートナーの意味が分からないのかもしれない。


 だからわたしは優しく言葉を付け加える。


「あなたに力を貸して、あなたを見守る。それがこのわたし、妖精のリリィだよ」


「りりぃ……リリィ……。うんっ、よろしくねリリィ! 僕はシグレって言うんだ」


 シグレ、か。


 わたしはその大切なパートナーの名前を噛み締める。


 きっと、まだ幼い彼には言葉ではあまり意味は伝わらなかったかもしれない。


 でも――


「あはは、リリィってあったかーい」


 でも、きっと『思い』は伝わっているに違いない。


 出会ったばかりのパートナー、その両手に包まれながらわたしはそう確信する。


 小さいわたしの体を優しく大切に覆うその温もりは、わたしがシグレというパートナーに出会った事を全身で感じ、喜びに震えるには十分すぎたのだから。



 そう、かつてそんなことがあった。

 それはなんの変哲もない、出会い。

 それはもう何年も、何年も前の出来事。


 妖精にとって時が経つのは早いことは知っていた。

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