極道
『山岸組』
戦後に作られた指定暴力団。関西で作られた山岸組は現在関東全域にまでその力が及んでおり、現状日本で一番でかい暴力団である。
その本部であるカオリの家は見上げるほど大きく、入口には見回りを付け監視カメラを複数台導入して不測の事態に備えている。ましてや今から行われる『山岸組緊急幹部会』は敵対組織だけではなく、下っ端の構成員にも聞かせることは出来ない。その内容は。
「先日、私の父である15代目組長『山岸
「オヤジが...」
「無茶ばっかしてたからな」
カオリの父であり、組長でもあった『山岸 一也』が死んだ。若い頃の無茶が祟ったのか、それともバチが当たったのかは分からないが、重い心臓病を患っており、呼吸器を付けていた姿は誰が見ても長くはなかった。しかし、長くないと分かっていながら組の時期組長を決めていなかったのは、もう少しで組長が居なくなると認めたくなかったのだ。
金にがめつく、根性論が酷い男だったが、カタギには手を出さず仁義を通し続けた極道だった。山岸組の幹部の男達で一也に殴られたことがない男は居ない。しかし、それでも皆一也を尊敬し憧れていた。そんな一也が死んでしまった今、山岸組の組長になるのは誰か、というのが今回の緊急幹部会の目的だ。
「順当に行けば、
「異議はねぇ」
「俺...か」
佐伯 アキラ。地位は若頭でありカオリの世話係である男。スキンヘッドに強面な顔でいかにもな見た目をしているが、趣味は料理でカオリが赤ちゃんの頃から世話をしているカオリのもう一人の父親みたいな男だ。組長が死んだ今若頭であるアキラが組長になるのは当然であるが、
「組長には私がなる」
「お嬢!?」
「何を言ってるんですか!?」
「お嬢が...?」
その会議にカオリが口を挟む。カオリの言葉に幹部衆がざわつく。会話の中心に居たアキラは無言を貫いている。組長の一人娘であるカオリが名乗りをあげること自体は予想されていたが、カオリはまだ高校二年生の子供。そんな子供に極道という険しい道を進ませる訳にはいかないというのはこの場にいる全員の共通認識であった。
「お言葉ですが、お嬢は女でまだ子供です。いくらなんでもヤクザには...」
「父の跡は私が継ぐ。異論は認めない」
「しかし...」
「良いじゃないか八木の兄貴。お嬢もこう言ってるし。何より、あの組長の娘だ。そんじょそこらの生娘とは訳が違ぇ」
カオリの身を案じて異を唱える八木をアキラが説得する。しかし、八木の言葉は当然のことだ。八木の言葉はカオリの事を案じているのもあるが、組のメンツというものを気にしてもいた。極道とは舐められたら終わりの世界、そんな世界で女が組長にでもなれば他の組から徹底的にやられるに決まっていたからだ。長年続いてきた山岸組を終わらせるわけにはいかない。その事はこの場にいる幹部やアキラだけでなく、カオリ自身も分かっていた。
「背中に彫った閻魔、父に誓って私がやる」
「....出来るんですか?女に?」
「私を舐めた奴は全員殺す。そのぐらいの気概だよ」
「っ!」
長年積み上げてきた組のメンツという重圧を耐えることが出来るのかと問われる。それに対しカオリは光無き眼で答える。その言葉を聞いた幹部全員脂汗を流す。長年極道に身を置いてきた彼らの本能が、カオリの言葉が嘘や上っ面に聞こえなかったからだ。ただの女子高生であるカオリが暴力と金が支配している世界で何が出来るかと言われれば答えずらいが、カオリは『殺す』という言葉を本心から語った。カオリの覚悟を聞きもはや何も言うまいと、その場に居る幹部達は無言で頷き合い、立ち上がる。
「これからよろしくお願いします、組長」
「「「お願いします!!!」」」
カオリが組長ということを認め頭を下げる。正式に組長に就くのは盃を交わして行ったりするのでもう少し先だが、ひとまずは組長になることに異議を唱える者は居ないと確認してカオリも立ち上がる。襖を開け自室へ戻ろうとするが、あることを思い出して足を止める
「アキラ、頼みごとがあるんだけどいい?」
「はい、なんでしょうか?」
「ちょっと調べ物をね」
カオリは懐から一枚の写真をアキラへ渡す。そこに写されている人間は人工的な染め粉を使っていない生まれつきのブロンドヘアーを伸ばし、イギリス人の遺伝子を持っているため大きな目に高い鼻筋を持った整った顔立ち。顔はまだ丸みを帯びており幼さを残しているが、成長すれば美人になるのは目に見えている少女。姫川アリスの写真だ。
「この女の子を徹底的に調べておいて」
「分かりました。けど、なんでこんな子供?」
「...秘密」
口に人差し指を当てて笑うその姿は暴力団の組長には見えないほど可愛らしいものだった。
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