金髪不良、ヤクザ組長と出会う



 そうしてしばらく歩くと、やがて目的地に到着したのか、銀二が立ち止まった。目の前には頑丈そうな扉があり、その先には立派な部屋があるのが分かった。


「……ここです。どうぞ、中にお入りください」


「はい、分かりましたわ。ご案内ありがとうございます」


 銀二に案内されて辿り着いた先は、いかにもな部屋だった。部屋の奥には大き目の机が置かれており、その前には応接用のソファやテーブルが置かれているのが見えた。


 その周辺には重厚な金庫に立派な掛け軸、それに本物の様に思える甲冑や日本刀等が飾られていたり、壁に掛けられたりしているのが分かる。


 他にも高そうな壺や置物等が置かれていたりと、まさにこれこそヤクザの部屋だと思わせられる様な内装になっていた。


 そして部屋の中央にある応接用のソファの前には、一人の和服を着た男性が座っていた。彼がこの組の組長なのだろう。彼は立ち上がると次郎達に向かって声を掛けてきた。


「おう、良く来たな」


 そう言って、にこやかに笑いながら挨拶をした男は、とても強面な見た目とは裏腹に親しみやすい雰囲気を持っていた。


 年齢は六十代半ばに届くくらいだろうか。顔に刻まれた皺の数からして、それなりに年を重ねているのだろうという事が窺えた。


 しかし、そんな老人とは思えないほどの覇気を感じさせる佇まいをしており、まだまだ現役であるという気迫を感じさせていた。


 髪は黒々としており、それを角刈りにしているのが特徴的だ。背はそれほど高くなく、全体的に瘦せ型だが筋肉はしっかりとついている様に見える。


 そして顔立ちはとても整っており、若い頃はさぞモテたであろうと思われた。その姿はまさしく裏社会の人間といった風格であり、只者ではないと思わせる程の迫力があった。


 だが、それでも決して威圧的な態度をとっている訳ではなく、寧ろフレンドリーな感じさえ感じられた。それは学生である次郎や雪乃を気遣っての事なのかもしれない。


「話は色々と聞いている。俺が組長の峰岸だ。よろしくな」


「あ、ああ、はい。どうも……」


 意外な態度に次郎は拍子抜けしながらも、次郎は軽く頭を下げて挨拶を返す。


 そして組長はそれを見届けると、雪乃へ視線を向けた。彼は雪乃をしばらく観察した後、彼女に話し掛ける。


「あんたが四条さんの娘さんか……いや、美人さんだね。こりゃ将来はもっと別嬪さんになるぞ」


「ふふ、有難うございます。お世辞でも嬉しいですわ」


「いやいや、俺は世辞なんて言わないぜ。本心さ。まぁ、こんなジジイに言われても、嬉しくはないだろうがね」


「そんな事はありませんわ。私としてはお褒めして頂き、嬉しい限りですわ」


「そうかい? それなら良かったよ。まっ、立ち話もなんだ。二人共、ソファに座りな」


 次郎と雪乃の二人は促されるままにソファへと座る。そしてちょうどそのタイミングで、誰かが部屋の中に入ってきた。


「親父、お茶持って来たんだけど」


 そう言いながら部屋に入ってきたのは、先程に別れたばかりの智絵である。智絵はお盆の上に湯飲みを三つ乗せており、どうやらお茶を淹れて来たらしい。


「おお、悪いな。そこに置いておいてくれ」


「うん、分かった」


 智絵は組長の指示に従い、テーブルの上にお茶の入った湯飲みを置く。そしてそれが終わると、智絵はそのまま部屋から退出しようとする。


「おっと。智絵、ちょっと待ちな」


「……何?」


 出て行こうとする彼女を組長が呼び止める。すると彼女は面倒臭そうに振り返る。その顔には不満げな表情が浮かんでいた。


「お前も残りなさい。少し話があるからな」


「……はいはい、分かりました」


 彼女は渋々といった感じに返事をして、空いている席―――組長の隣に腰掛けた。


「いやぁ、すまないね。不愛想な娘で。本当はもう少し可愛げがあるんだがなぁ……」


 組長はそう語るも、次郎はそれに何と返答していいか分からず、苦笑を浮かべるだけだった。


 そんな表情を見てか、智絵が少しだけ不満気味に表情を歪め、次郎を睨んでいた。それを受けて、次郎は気まずく視線を逸らす。


 しかし、そんな事はお構いなしとばかりに、組長は話を進める。


「そういえば、二人はうちの娘とは同級生で良かったかな。うちの娘はどうだい? 何か迷惑とか掛けてないかな」


 唐突に組長がそんな事を聞いてきたので、次郎と雪乃は思わず面食らってしまう。まさかいきなりそんな質問が飛んでくるとは思わなかったからだ。しかし、すぐに気を取り直して答える事にした。


「え、ええ。特に、何も……」


「そうですわね。私も良くしてもらっていますもの」


 そう語る二人だったが、次郎からすれば現在進行形で騒動に巻き込まれている最中であるし、雪乃は学園では特に智絵と話す事は無い。その場を切り抜ける程度に話を合わせた回答であった。


「おっ、そうかい。それなら安心したよ」


 だが、それで満足したのか、組長は特に気にした様子も無く頷いていた。彼がそうしている最中も、智絵が気まずそうな雰囲気を出していたが、あえて誰もそこには触れなかった。触らぬ神に祟りなしというやつだろう。


「親父、そんな事はどうだっていいでしょ。早く本題に入ってよ」


「ああ、そうだったな。じゃあ、そろそろ始めようか」


 そう言うと、組長は先程まで浮かべていた笑みを消して真剣な表情を作る。それに合わせて、場にいる全員の表情もまた真剣な物へと変化していった。


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