僅かな休息と考察


 カサンドラ・デル・レイ大隊長を撃破した。


 その事実に喜ぶ暇も無く、ボク等三番隊は早くも移動を開始していた。


「あ、足が痛い……」

「すまないねぇペーネロープ、功労者に運ばせて」

「アンタが動けなくなったら意味が無いんだから、気にすんなっ……!」


 加速イグニッションの影響で足を痛めたペーネロープの背中に背負われたままボクは疲労を回復しつつ移動していた。


 フィオナのボクを見る目線が痛いね。


「……いえ。それが両者納得した形なら、いいのではないでしょうか」

「多分それ、ボクよりペーネロープが哀しむよ」

「……まあ……役に立てないよりはマシってとこね」


 第三部隊陣地からさっさと森の中に逃げ込んで、一度一息つく。


 我ら黄金騎士団は襲撃に遭いつつも普通に撃退、無事に勝利を納めている。

 ていうか姉上だけで余裕だったと伝令の人が言っていた。

 よくもまあ、あんな人に昔のボクは平気で勝ってたね? 


「ふぅ、はっ……ごめんなさい、少しだけ休みます」

「ああ、気にするな。どうせ次の目標まで距離がある」

「第一部隊を最後にするなら第四部隊が先だっけか。第三部隊は機動力で勝てたけど、次はどうしようか……」


 ペーネロープが座り込んだので膝枕でもしてあげようかと思ってポンポンと膝を叩いてアピールしたが、彼女は少し考えた後首を横に振って木にもたれかかった。


 振られちゃった。


「…………早い。とにかく」

「早い……全部が?」

「…………そう」


 ジンが言うなら間違いない。

 第四部隊隊長、マルコ・ヒメネスだったか。

 遊撃部隊として駆け回る事を前提として組まれた部隊、って話は聞いてる。


「あの部隊に入隊するには最低限の条件として、『足の速さ』が求められているんだ」

「ペーネロープなら入れそう?」

「我々なら問題なく入れるさ。だがその水準の高さが部隊全体で保持されているから厄介なんだ」

「……ああ、そういう事か。つまり全部隊ひと括りで動けるんだね」

「ご名答」


 つまりボクら少数精鋭(だと思われる)が実行するような電撃戦を彼ら彼女らは全部隊全人員で実行できるらしい。


「……でも火力は第三部隊に劣る。ていうかあの感じ多分、カサンドラ大隊長がヤバいよね」

「……その通りだな。だからこそ就任できたというのもある」


 第三部隊はほぼ個人軍なのか~……

 めまいがしてきたな。

 これ、本当にこのあと帝国と戦争しなくちゃいけないのか。

 しかも第四師団との小競り合いという名の内ゲバもなんとか解決しなくちゃならん。


 うおお、前途多難だぜ。

 

「…………アーサーがいるから、大丈夫」

「ジンはアーサーに甘いのよねぇ……」

「大丈夫か? なんか弱みでも握られてないか?」

「…………昔を、知ってる」


 えっ。


 ジンは覇気のない瞳のまま二振りの剣を手入れしている。


「昔…………一度、顔を合わせた」

「…………ごめん、全然覚えてない。いつどこで?」

「…………教え、ない……」


 ジンは少し頬を緩め微笑む。


「…………なんかムカつくわね。私達のジンだからぽっと出が好感度稼がないでちょうだい!」

「そうだそうだ! 俺には全然優しくしてくれないのに酷いぜ!」

「そういうところでは?」


 フィオナの冷静な突っ込みにルビーとバロンはワハハと笑う。


 いい空気だ。

 第三部隊を倒して戦果は上場。

 これから第四部隊と第一部隊を相手に攻略しつつ、しかもその内片方は第二師団最強格が相手。

 

 ボクが使える切り札はあと三つ。

 その内一つで敵を倒す計画なので、実質的にあと二つ……いや、一つかな。

 パワーバランスで言えば第一部隊大隊長>カサンドラ大隊長>姉上>第四部隊大隊長ってところか? 第四部隊は多数で攻めてくるだろうし、ボクにとっては相性がいいね。


「そういえばルビー。君って弓の方が得意なの?」

「ああ……言ってなかったっけ。結構目がいいのよ」

 

 目が良いってレベルじゃない精度だったけど……


「今はそれくらいで納得してもらえる?

「……ふーむ。なら仕方ないね」

「ええ、仕方ないの。ねぇバロン」

「んっ、お、おう。そうだな」

「ああ~、なるほどそういうことか。細かい事はともかく納得したから大丈夫だ」


 姉上さ。

 三番隊、手塩にかけて育てたメンバーとかじゃないねこれ。

 いろんな事情がありつつそれら全てを強引に解決させる為にボクを捻じ込んだだろ?


 …………ルビーとバロンの事情はともかく。


 機動力に特化したペーネロープ。

 近接戦闘において無類の強さを発揮するジン、アンスエーロ隊長。

 弓矢での超遠距狙撃を可能とするルビー、その関係者らしきバロン。

 あとはそこまで裏が無さそうなフィオナだけど……彼女の兄は魔法使いだ。何が隠されてるのかな?


 そしてここに上手くいけばマルティナを捻じ込める、という訳か。


 悪くない。

 帝国と戦うにはまだ心細いけど、第四師団を相手に大立ち回りをするなら悪くないぞ。


 姉上は部隊そのものを整える事を選んだ。

 特別秀でた傑物を数人育てる事よりも、全体の水準を引き上げて組織が潰れないようにすることを優先した。

 

 それならこの三番隊は、将来を背負える隊になれるはずだ。


 姉上ならばそう仕組んでもおかしくはない。


「なるほど、なるほどなるほど……」


 ボクらの有益さを他全てにアピールしつつ、ヘイトと注目を集中させながら成長を促すって感じか。


 そして急激に伸びる事を期待し、なおかつ自らの牙も研ぎ続ける。


 なんだ、姉上。

 全然内政も暗躍も苦手じゃないんだね。

 タダで転ぶ人だとは思ってないけど、しっかり入念に準備は整えてきたのか。


 その意図は……他に誰に伝えてる。


 アンスエーロ隊長か、それともジンか。


 多分最も重要だと思っているのはこの二人なんだろ。


 まだ姉上が主導権を握ってる。

 いつだ、いつになったらボクが握るべきだ。

 それは今から考えても遅くない、計画を立てておくべきだね。


 4、5年と言った。

 

 その間に全ての片を付けるとすれば、被害は一極に集中するだろう。


 最悪首都が火の海になるかもしれない。

 それも織り込み済みで、貴女は前に進み続けるつもりかな?


「……よし、そろそろ時間だ。次の目標へ向かうぞ」

「ん、了解だ」


 今はまだ模擬戦だ。

 でも、いずれこの戦いが役に立つときがくる。

 だからボクらにこの状況を背負わせたんだろう、次に備えて。


 怖いなぁ……


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