第二師団総合演習⑥ VSカサンドラ・デル・レイ
閃光。
ボクたちエスペランサ一族が、最も最初に習得する魔法。
光の結晶を生み出し、破裂させる。
ただそれだけの技である。
でもその単純さがあるから強い。
ボクたちは光の結晶を変質させることで様々な出力へと変換する。
初手であの結晶を生み出すタイムラグは致命的だけど、それを補って余りあるアドバンテージを保有している。それは敵に対して意表を突くのも堂々と正面から挑むのも選べるという点だ。
槍を出すか、剣にするか、それとも閃光か。
知っていても悩むその選択肢を初見で押し付けられるのは圧倒的な有利。
もちろん速攻で殺しに来られればまずいから、殺されないくらい強い奴じゃないとそもそもこの魔法を扱うことは許されなかったりするんだけど……
「──全員、
声を張り上げて事前に伝えた通りに実行する。
ペーネロープとフィオナが駆け出す。
周囲の騎士たちもそれに気が付いたけれど、まだ視界が定かじゃない筈だ。
ジンとアンスエーロ隊長も作戦を悟ったのか、周囲には気にも留めず前へと足を歩み始める。
「させるかッ!!」
カサンドラ大隊長もまともに閃光を食らった筈なのに堂々と大剣を振りかざす。
あの一瞬で庇った?
不可能じゃない、あれだけの身体能力に恵まれてる怪物だ。
「本当に人間か疑いたくなるね」
結晶を再度構築する。
こちらの人員が騎士の壁を突破する事を選択した以上悠長にはしていられない。
大隊長の遊び場という名目でただ聳えるだけだった騎士達が、敗北を避けるためにボク達に攻撃を仕掛けてくる可能性だって高い。
だから速攻で決める。
カサンドラ大隊長の振り上げた剣が、一足先に駆けていたペーネロープとフィオナに対して向けられる。
ペーネロープが剣を睨みつける。
その足に宿った魔力が、彼女を加速させる。
強化したボクの目ですら追い切れない高速の軌跡を描いて、圧倒的格上であるカサンドラ大隊長の隙を縫うように潜り抜けた。
「な────っ」
「驚いたかい、カサンドラ大隊長」
三番隊は秘匿されていた部隊らしい。
その詳細は他の一番隊や二番隊も知らず、黄金騎士団の中ですら共有されてない噂程度でしか他部隊には伝わってないそうだ。
それはカサンドラ大隊長の言葉で理解した。
ジンは昔から活動しているから有名で、アンスエーロ隊長も付き合いがあるからそれなりに知られてる。
それならペーネロープやフィオナ、そして──ルビーやバロンは?
光を剣に宿す。
折角物理的に存在する武器があって、それに魔法の威力を上乗せする手段があるんだから使わない理由がない。
「突っ走れ、ペーネロープッ! フィオナ、反転しろ!」
ジンやアンスエーロ隊長が、ボクの本当の真意を理解するための言葉。
ペーネロープは加速の反動で僅かに足をもつれさせつつも決して止まる事はない。
この戦いの結末はこの時点で保証された。
彼女の機動力は、我々の中でも決して劣るものではなく──寧ろジンに唯一縋りつける機動力を持っているのが、ペーネロープだ。
フィオナがくるりと身体の向きを変えて、カサンドラ大隊長の背中を取る。
そして正面には光の剣を構えたボク。
さて、これでどう動く?
貴女はボク達のことを受け止めるか、それとも──……
「…………フフッ」
大隊長は呟く。
「フッ、フフフッ、フッハハハ!!」
心底愉快でたまらないという笑い声。
鎧をガシャガシャと鳴らしながら、背後から斬りかかってきたフィオナの剣を片手で受け止めながら言う。
「いい、いいね、良すぎるよ
「どうやら期待通りの働きは出来たようで?」
「ああ、最高だよ! 今すぐに抱いてやりたいね!」
「ハグなら歓迎なんだけど、ボクの身体じゃ圧し折れちゃいそうだ」
フィオナは剣を手放して後退し、隠し持っていた短刀で斬りかかる。
それに合わせてボクも剣を振るう。
左手には、光の結晶を用意して。
「【
「はああぁぁっ!!」
ボクとフィオナがそれぞれ挟む形でカサンドラ大隊長に対して斬りかかり──それすらも、大隊長という圧倒的な怪物は容易く反応して見せる。
それを、信じていた。
「────がっ!?」
ガイイィィンン!!
金属音が鳴り響く。
その発生源は、カサンドラ大隊長の兜。
弾かれたものの、超遠距離から放たれる狙撃は予想外だった筈だ。
「狙、撃……!?」
遠くの森からずっとこの機会を狙っていたルビーとバロン。
この距離を、たった一度の狙撃チャンスを逃さないで一発で当てる。
半端ないね、ルビー・フロスト。
好きになっちゃうところだったよ。
「ナイスだ!!」
その隙は逃さない。
その一瞬の隙、超人が不意打ちをくらい崩れるその刹那をボクはずっと待っていた。
一対一で現状ボクに勝ち目はない。
それでもこちらは七人もいて、向こうは一人。
作戦も整えてきた此方と待ち受ける向こう。
殺す気でやっているこっちと、手を抜いている向こう。
どちらが勝つかは明白だろ……!
左手に作った光の結晶を握りつぶし──そこから莫大な魔力が溢れ出る。
これで切り札の内
あと利用できるのはたった三回、その三回であと二人の大隊長を撃破する。
くぅ~、辛い話だ。
それでもそこまで悲観的じゃあない。
ボク達ならやれる、という根拠の無い自信が、少しだけ心の中にあるから。
「────【
左手に光だけで構築した剣を握り締める。
つまるところ、ボクの考えた作戦はこうだ。
目くらましを利用してペーネロープとフィオナを先行させ、カサンドラ大隊長の一撃を避けられるであろう加速を備えたペーネロープに陣地まで向かわせる。
フィオナはボクと大隊長を挟み込むことにして、ルビーに合図として伝えていた【
ジンとアンスエーロ隊長に意図が通じなくても押し通せるギリギリを縫って計算したけど、案外うまくいくものだね。
そしてダメ押しに一つ
破壊力も速度も何もかも、この一瞬にかけたものだけならば大隊長にだってくらいつける。
そうするだけの価値があるのがこのたった一つの石ころなんだ。
「――――…………ふふっ」
カサンドラ大隊長は大剣を振り回し、ボクの剣を受け止めようとする。
でもそれじゃダメだ。
貴女の本気じゃない程度の一撃は、今のボクを止めるのに至らない。
刃の潰れた大剣丸ごと圧し折って、光の剣は大隊長へと向かっていく。
これで死ぬような生易しい相手じゃないけど、ペーネロープが陣地を確保するまでの時間は稼げるさ。
「やるじゃないか、アーサー・エスペランサ」
「ありがとう、カサンドラ・デル・レイ大隊長」
光の剣が、彼女の鎧を打ち砕き。
遠く離れた陣地にて、ペーネロープが目標である旗を奪ったのを目に捉えた。
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