第二師団総合演習④ VSカサンドラ・デル・レイ
大隊長、隊長格、その他一般。
そう分けられる程度には隔絶した実力差があって、事実機能しているのだから間違いない。
大隊長になれる人物は実力、人格、将来性に腹に抱えた何かを把握されたうえで、すでに大隊長として選ばれた人間の推薦によって決められる。
現役の者が生きていれば四人、死んだ末の交代ならば三人。
満場一致で問題なしと認められない限り大隊長という肩書きを背負うことはできず、それに選ばれたということは少なくとも。
『第二師団で最強の四人』と格付けされているのだ。
振るわれる大剣に捲れ上がる地面、浮き上がる身体と突風。
本当に同じ規格の人間か疑いたくなってくる化け物っぷりにドン引きしながら、飛んでいく勢いに身を任せたまま魔法を使う。
「【
数は四。
せめて目眩しにでもなってくれよと祈りを込めて打ち出すが、片手で払われてしまいなんとも言えない気分になる。
地面に身体を打ち付けることもなく、背後に回り込んだペーネロープがボクの身体を回収する。
「ありがとう、助かるよ」
「気にしないで。……私じゃ、あそこに混じれないし」
歯痒そうに呟く視線の先には大隊長を相手に一歩も引かない超人達の戦いが繰り広げられていた。
時折空を駆けながら三次元的な動きで撹乱するジンに、その隙間を縫うように反撃を潰すアンスエーロ隊長。いくらカサンドラ大隊長が手加減をしているとはいえ、たった二人で大隊長一人を抑え込んでいる事実は驚くべき戦果だった。
ていうか、本当にジン化け物みたいに強いじゃん。
そりゃあ子供の頃から従軍して生き残れるわけだよ……
「とんでもないですね」
「フィオナ、君も見学か」
「ええ。下手を打てば足を引っ張ることくらいは察せます」
フィオナもまた悔しそうに拳を握りしめていた。
みんな上昇志向がすごいねぇ。
ボクは勝てないなら他の人に任せようくらいの感覚だけど、どうやらそうではないらしい。
でもそっちの方がありがたい。
おかげでボクが情けない無能である事実を隠せる。
「でもアンタは頑張りなさいよ」
「おっとペーネロープ、少し待ってほしい。今ボクは吹き飛ばされたばかりで少々疲労が溜まっていて」
「自慢の魔法があるじゃない」
「それを片手間に払われてるんだよなぁ」
「それで諦めるの?」
「まさか。今はそのタイミングじゃないってだけだ」
ジンとアンスエーロ隊長は一見互角に見えるけど、実はそうじゃない。
格上が手を抜いていて、こちらはそれなり以上に全力。
そうすれば先に消耗するのはこちらで、余力と地力に優れる大隊長が有利になるのは明白だ。
ならどうするべきか?
そんなのは分かりきってることだ。
あの二人が耐え忍べている段階で逆転の一手を探し出し、穿つ。
それ以外にボクらが勝てる方法はない。
「勝つ必要はないんだ……」
そう、ここで勝たなくちゃいけない理由はない。
陣地の奪取、ルール上これでいける。
身体能力に優れる騎士達をくぐり抜けてどうやって取るかという話であり、それを探すのがボクの仕事というわけだね。
ペーネロープの加速は一瞬しか保たない。
だがその刹那、彼女は風を置き去りに駆け抜ける。
これははっきり言って異常なアドバンテージだ。
だが、ここで使用してしまえば、より足のはやい第四部隊を相手にするのは難しくなる。
彼らは遊撃特化だ。
機動力は底知れない。
フィジカルでゴリ押しされる可能性が最も高い。
だから、針を縫うような一撃を練らなくちゃいけない。
今のボクにそれが出来るか──やるんだ。
それが出来てしまうから、かつてボクは最強になったんだろう。
「ペーネロープ」
「何?」
「加速のコツは、魔力をどう動かせばいい?」
「…………アーサー、アンタ冗談でしょ。この土壇場でそれを言うの?」
「ああ。それしか手はない」
そしてそれをやって大丈夫な手札は揃えてきた。
攻撃特化の大隊長、カサンドラ・デル・レイ。
戦いを愛している口ぶりでものを語る彼女の闘争心はボクでは補いきれない。
そして、あれは今ここで倒さなくちゃいけない対象にはなり得ない。
ペーネロープの加速。
そしてボクの魔法能力。
ジンと隊長で抑えられている今しか出来ず、そしてこれが失敗すれば多分、彼女は本気で僕達を潰しに来るだろう。
だから一度きりのチャンスだ。
失敗は許されない。
「【
彼女はグッと顔を強張らせて、ボクの顔を見た。
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