第二師団総合演習②


「────【降り注ぐ光の槍メテオリーテ・エスペランサ】ッッッ!!!」


 百を超える光の槍が飛来する。


 狙いは全部第三部隊。

 本隊を狙うのが五十、土を打ち崩すのが五十。

 魔力石一つ支払ってかつてのボクを一度再現するのがギリギリだってのが辛い所だ。


「──三番隊、行動開始ッ!!」


 アンスエーロ隊長の号令と共に全員が動き出す。


 ボクも頭痛を無理矢理抑え込みながら脚を動かすけれど、あまり素早くはない。


「アーサー! 連れてくから!」

「ぐえっ」


 無理矢理担がれ乗り心地最悪な乗り物に乗る羽目になった。


 その名前はペーネロープ号。

 綺麗な髪の毛が目の前で舞いつつ、戦いに備えて小さくポニーテールで纏めている。

 ふわふわ顔に当たってちょっと痛いし、何より滅茶苦茶速いから揺れが凄い。


「ペ、ペーネロープさん! もっと安定して運べないかな……!」

「無理! 我慢して!」

「ひ、酷い頭痛だ……」


 飛んでいった槍が無事に着弾したのを視認しつつ、ペーネロープは文句を言うボクに痺れを切らしたのか持ち方を変えた。


 俵担ぎから横抱きへ、横抱きからお姫様抱っこへ。


 ふーむ……

 ボクの尊厳という物が徹底的に破壊されている。

 頑張って光の槍撃ったのに仲間からの扱いはこれである。


「ふふ、元気かお姫様」

「存外悪くない気分だ」


 アンスエーロ隊長は面白そうにボクを揶揄ってきたが、このくらいの仕打ちでボクが動揺するとでも思ったのかな? 


 そもそも恥なんてものはないしね。

 これも自動で運んでくれる乗り物だと思えば悪くはない。


「無敵か? この男……」

「フフ、甘いねアンスエーロ隊長。ボクは維持やプライドというものはないからこの程度なんともおもわ」


 ペーネロープが踏み込んだ。

 両手が塞がっているため敵の攻撃を避けるには自分が動くしかないからサイドステップしたんだ。

 その結果として喋っている途中のボクは舌を噛み無駄に魔力を治療に回さなくちゃいけなくなってしまった。


いふぁいよ痛いよ、へーへほーふ」

「じゃあじっとしててよ」


 まあ予想通りというか計画通りというか、ボクの一斉射撃だけで全部を倒せる程ではなかった。


 でも被害は与えられたはずだ。

 視線を向けて見れば陣地が崩壊しかけているのにも関わらず大した動揺も無く、威風堂々と構え──いや、構えてない。


 九割くらいが全力でボク達から離れて行軍していき、残された一割程度がこちらに対して向いているだけ。


 攻撃の意思は読み取れない。


「うん? かなり少ないね」

「…………ああ、最悪なパターンだ」

「……なるほど、そういう事か」


 視線を改めて向ければ、堂々と剣を地面に突き刺した状態で待ち構える一人の騎士の姿がある。


 真紅に染まった鎧。

 特注であろうゴツく太い剣。

 斬るためではなく叩き潰す為に用意されたであろうそれを、軽々しく引き抜いてボクらに構えた。


「第二師団第三部隊大隊長──カサンドラ・デル・レイ……!!」


 アンスエーロ隊長の呟きと共に、その騎士の姿がブレるその刹那。

 脳に回していた魔力を全て瞳に集中し、圧倒的上位者を見失わなずにとらえられるように準備して──手遅れだった事を悟る。


 眼前に振り抜かれた大剣。 

 刃は潰してあるのかもしれないけど、その速度と質量から察して一撃でボクは粉砕される。


 反応は間に合わない。

 ペーネロープもボクを抱えていた影響で間に合わない。

 一撃で詰んだ。

 とんでもないな、大隊長ってのは。

 でも、まだ大丈夫だ。


 物理的に詰んだ程度でやられるほど魔法使いは不器用じゃない。


 ────ゴッッッ!!! 


 目の前に自動障壁と拮抗した大剣が衝撃を撒き散らす。


「ペーネロープッ!」

「っ────……!?」


 声を荒げて名前を呼べば、瞬間的にバックステップして射程から外れる。


 その隙間を縫うようにアンスエーロ隊長が躍り出てフロントを構築してくれたものの、大剣とただの剣では正面からのぶつかり合いは不利。


「ここまで助かった」

「え、あ、うんっ」


 ペーネロープの腕の中から飛び出して、目で追えない速度の剣戟を繰り広げる二人の間に魔法をねじ込む。


「【光の槍エスペランサ】──!」


 妨害、もしくは目くらましになってくれればいい。

 最初からこの程度の軽い一撃が大隊長なんて格上に通じるとは思っちゃあないさ。

 というか、想定してた中で一番最悪な敵だよ! 

 どうして姉上の方に行ってくれないかなぁ……!? 


「ほう」


 楽しそうな声色だ。

 あ~~……これは最初からボクらが来ることがわかっていたね。

 それはつまりお漏らしした人がいる、と言う事だ。

 具体的に言うなら、わざわざ他の部隊に言えるような立場の人だね。


「姉上ぇ! 難易度上げたなこんちくしょう!」

「──なるほど、君がフローレンスの弟か」


 光の槍を片手で弾き、アンスエーロ隊長の剣も鍔迫り合いと同時に軽く払ったカサンドラ大隊長は、そのままボクらに追撃することはなかった。


 ただその代わり、周囲を第三部隊の騎士たちが囲い込む。

 これで逃げ場は無くなった。

 でも仕掛けてくる感じも無い。

 ふー…………この人の人柄も確認しておくべきだったんじゃないか? 


「アーサー・エスペランサ。噂には聞いているよ」

「へぇ、自分で思うよりボクは有名人なのかな?」

「フローレンスがあれだけ執着する男がまさかの弟だと来たからね。どうしても味見しなくちゃいけないと思ったのさ」


 おいおい勘弁してくれよ。

 せめて隊長格との戦いを想定してたのにいきなり大隊長か。

 しかもこの後第一部隊の隊長との戦いもあるんだけど。


「一対一とは言わない。私の方が強いのは今のやり取りで理解した」

「ふふ。今のボクは最強とは程遠いから、それは仕方ない」

「ああ。まさか部隊の女性に運ばれてくるとは思わなかったけど……そんなものはどうでもいい。対魔法使いは久しぶりだから、楽しみにしてたんだ」


 そう言いながらカサンドラ大隊長は大剣をこちらに向けた。


「見せてくれ、アーサー・エスペランサ。フローレンス・リゴールの最後の切り札である、君の力を」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る