オールイン?
前提の話をしよう。
まずセイクリッド王国は四つの軍部に分かれている。
王族との関りが深い第一師団。
国境守護を使命に掲げた第三師団。
魔法使いを擁する第四師団。
明確な敵対をしているのは
正面きっての殺し合いに発展してないのは此方の戦力が不足している点と、向こう側にメリットがほぼ無いからだろう。こっちは第四師団を殺し切ってその後迫り来る帝国と王国を相手に勝つ必要があり、第四師団の狙いは多分、この国の崩壊。
黙ってても勝ちが決まってるくらい優位なのにわざわざ身を削りに来ない筈さ。
そんな第四師団に若くして入ったならともかく。
古くからずっと所属していて、甘い蜜を吸う事になれきった人材を身内に抱えた善人が抱える感情ってのは一体どうなってるかな?
「
「…………」
「父も母も魔法使い、父は第四師団に所属しており息子に『ロクデナシ』扱いされる様な人間。本当は身を削って家族の為に必死になっている可能性も考えたけど……その線は薄い。第四師団にどっぷり漬かりきった中年がどうなってるのかは、想像に難くないからね」
彼女は答えない。
しかし視線を僅かに俯かせたままブランコから動く事もない。
別に洞察力に優れてるだとか、本当は優れた頭脳を持つとかそんなんじゃないぜ。
単に今は記憶に容量を割いてたのさ。
常に魔法の事だけを考えようとする思考を無理矢理抑えつけている状態――このあと反動が来て我慢できなくなる気がするけど、それはしょうがない。
少しだけ足に力を入れて、ブランコに身を任せる。
錆びた金属が擦れあう特有の音が響いた。
「ボクは君をとても買っている。正直に言おうか、君が欲しい」
「…………は?」
「ハンスの才能は素晴らしいよ。現時点のボクじゃ逆立ちしたって勝ち目はないし、あの時ひっくり返せたのは彼にやる気がなかったから。全力で殺し合えばなすすべもなく殺られるのは明白だ」
前傾姿勢になって、顎を載せるように両手の指を組んだ。
膝と肘が筋力不足で微妙にプルプルしてるけどそれを何とか誤魔化しつつ言葉を続ける。
「だけど、ハンスじゃダメだ。
担ぎ上げるのは姉上だ。
あの人は本気で、人生の全てを捧げてこの国を救おうとしている。
その手駒の一つとしてわざわざボクのような愚か者を、徒労に終わるかもしれない努力を積み重ねて見つけ出した。
ボクはとっくの昔から傀儡だ。
君と同じなんだ。
「
横目でマルティナのことを見る。
彼女はボクに視線を向けたまま、口を開いて呆然と話を聞いていた。
呆れ果てた?
それは仕方ない。
大言壮語なのは否定しない。
きっと今のボクは誰が見ても過去の栄光に縋る哀れな男にしか見えないんだ。
それでいい。
真に報われるのは最後に笑った時だ。
たっぷり五分程、白い吐息を時折漏らしながら長考した彼女はやがて口をキュッと締めてから話を切り出した。
「……要するに。私はお前達に賭けて勝てると思えばそのまま乗っていいし、負けると思えば降りる事を許されていると?」
「そういうことになる。ハハ、滅茶苦茶だな」
「こっちの台詞だ! あり得ん、なぜそんなことを……」
「言っただろマルティナ。ボクは君が欲しいのさ」
今この瞬間にだってボクは君を手に入れたいと思っている。
こうやって会話を続ければわかるよ。
君は善人なんだ。
学生の頃も勉学に励み魔法を修め、手が空いた時には家族との時間を大切にして、ロクデナシと罵られる父と同じ師団に入りロクでもない上司に決して逆らわず組織の一員として活動する。
君が逆らわないのは父に迷惑をかけないためだろう?
「勿論家族丸ごと庇護することを約束しよう。
「…………はぁ、頭が痛い……」
「考える事が沢山あって退屈しないだろ?」
「ふざけるな、たわけが」
これで譲歩できる部分は最大限出してしまったかな。
現時点で確約出来るのはこれくらいだ。
もし彼女をありとあらゆる手法で手に入れるのならば多少強引な手も打つけど、多分それは姉上も望んでない。
ボクが必要以上に手を回す事に懸念してるみたいだからね。
あくまでボクの裁量でやれるくらいに納めておくべきだ。
ふう、条件の整った交渉ってのは楽しいね。
理詰めの感覚は魔法に似ているよ。
「…………まず、順番にいいか」
「構わない」
大きく息を吐きだしてからマルティナは続ける。
「一つ目。お前に
「おお! 大助かりだ、おかげで無様を晒さなくて済む」
「……ただし、質に関しては保証できない。ハンス様はああ見えて在庫管理とかしっかりするから、懐に納めるには業者に直接発注する必要がある」
「意外とちゃんとしてるんだ……」
「だから余計面倒臭いんだあの人は……」
ふふ。
しかも業務外でちゃんと様付けしてるのがいいね。
ふとした拍子で呼び捨てしたりしたら面倒だからそういうのに備えてるんだろうな。
ますます好感が持てる。
「二つ目。お前達に乗るのは……まだ、判断が出来ない」
「ん、当然だ。だからその材料を提示しよう」
「大体一週間後。第二師団の総合演習があるのはそっちでも把握してるだろ?」
「ああ。さっきも言っていたな」
「そうだ。実はボクの所属してる三番隊だけで他の部隊を全部倒さなくちゃいけないんでね」
「冗談では無かったのか……」
「うん……でも君が支援してくれれば、それは夢じゃなくなる」
「…………それで?」
僅かに期待を滲ませるような声色で、マルティナは続きを促した。
「チケットを用意する。特等席でボクらに賭ける旨みってものを見せてあげるよ」
「――――いいだろう。口だけで終わらない事を期待している」
その方が
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