現実は全然甘くない


「ぬふふふ……」

「うわ……」


 三日後。

 マルティナが夜遅くに物置に乗り込んでひっそりと置いていったプレゼントに頬ずりしていると、お越しに来たであろうペーネロープが引き攣った表情で見ていた。


「やあおはよう。今日も君は美しいね」

「……は!? なんなのいきなり」

「何ってこれだ。見てくれよこの輝き」


 そう言いながら魔力石マギアライトを見せる。


 第四師団に卸している業者から個人的に買い込んだという費用に気持ちを上乗せしただけはある代物だ(姉上のポケットマネー)。


 数は全部で5つ。

 大が1つに中が1つ、残り3つが小サイズだ。

 籠められた魔力が素晴らしい……天然物の魔力だ……。

 なんにでもなる無限のエネルギーと言って差し支えないだろう。

 ボクから生み出せる魔力ではボクの成分が混ざっちゃうから、純粋な魔力とは言えなくなってしまうんだ。

 だから地下深くから採掘されるこの魔力を孕んだ石は高値で取引される。

 そんなお金ウチにはありません。

 姉上、ありがとう! 

 流石貴族だね! 


「…………石ころじゃないの」

「石ころ!!?? そんな訳があるか!」

「なんなの!?」

魔力石マギアライトだ。今度の演習で切り札にするから、まだ皆には秘密にしておいてね」

「……確かに集中すればぼんやりと感じる。へぇ、これが本物なのね」

「あ、初めて見る? だとしたらすまない、少し気分が高揚してたんだ」


 周辺諸国は当然として帝国にも劣っている魔法後進国の我が国では残念なことに、ちょっとした魔道具への利用や金持ちが使用できる唯一の物資となっている。


 本当はそんなことに使うもんじゃあない。

 これは無限の可能性を秘めた賢者の石と言っても良い。

 地下深くからしか掘り出せない大地の魔力を孕んだ鉱石──ふふふ、ふふ……テンション上がって来た。


「まあこの程度じゃ何の足しにもならないんだけど」

「……ほんとになんなの、あんた」

「ははは、でもねペーネロープ。これが切り札になり得るのさ」


 魔力石マギアライトの扱いに関してはボクに一任されている。


 どれだけ使えるか判断も許されてるってことだ。

 第二師団全体のレベルがわからないからまだ難しいけど、そこは見極めないとね。

 最悪全部使い切っても良いから勝利はしないといけない

 そしてその上でマルティナを此方に引き込めるだけの納得を引き出す。


 ふ~~、かなり無茶する羽目になるな。 


 でもしょうがない。

 ボクが選んだ道だ。

 その点について文句を言うつもりは一つもない。

 まだ強い魔法使いと対峙はしたくないけど、克服しなくちゃいけない課題でもある。


 それを荒療治で治せるんだから姉上には感謝しないとね。


 ああ感謝だ。

 強い奴らとぶつかり合いをさせられてる理不尽に泣く暇はない。

 まず最初にペーネロープ、次に第二師団全体、じゃあ次はどうなる? 


「…………ま、本番じゃないとこの石は輝かない。君の言う通り『石ころ』さ」

「……あんた、本気で勝つつもりだったんだ」

「当たり前じゃないか。君に勝つのだって簡単じゃなかったしずっと本気だ」

「ん゛っ……ふ、ふーん。そうなんだ」


 嬉しそうにしてるなぁ。

 ボク如きに認められたからって特に何の得も無いけど、ペーネロープ的には昔のボクがいつまでも離れないんだろうね。

 ていうかペーネロープ、身体能力が高いから魔法使いじゃない相手には無双できると思うし強いんだよな。相性は良くなかったけど、ボクが少しだけ昔を思い出せたから勝てた。


 仲間達の戦い方も少しずつわかってきた。


 あとは作戦だ。

 その点ボクが役に立てる事はないだろう。

 だって10年前も魔法にばっか触れて生きてた人間だぜ? ひたすら思考だけ回して生きてきたとは言え、交渉から引き抜きまでちゃんとやったんだからこれ以上は隊長に任せても許されるよね。


 うん、頑張った頑張った。


「よし、寝るか」

「いや起こすけど」

「えぇ~。夜通し頬ずりしてたから寝たいんだけど」

「ひっ……き、気持ち悪……」

「誰が気持ち悪いだ。貧乏な魔法使いにとってはそれくらい嬉しい贈り物なんだぜ?」


 ペーネロープの引いた視線に晒されて心外だと言い返したものの、どうやらその印象を覆す事は出来ないらしい。


 酷い話だ。


「ほら起きなさい。ああもう寝直さないの!」

「うっ、朝日が眩しいぜ……」


 い、意識が覚醒していく。


 ふ~~……

 困ったな。

 まあ寝ぼけてても魔法発動に失敗する事は無いし、訓練に出てそのまま終わり次第爆睡すれば問題ないかな? 


「やれやれ……もう少しボクの苦労を労わって欲しいよ。ペーネロープ、甘やかしてくれないかな?」

「次の総合演習で勝たないと立場危ういのによくそんなこと言ってられるわね……」

「勝つ自信があるから言ってるのさ。胡坐をかいてる訳じゃなく、相手がよほど強くない限りは大丈夫だね」


 姉上クラスがガン待ちしてなければまあ多分大丈夫。


「……よほど強くない限り、ね」

「ああ。ルールの詳細はまだ聞いてないけど例年通りなんだろ?」

「ええ。大幅な変更は一つもないし、去年通り戦えばウチが勝てるだろうって話だった・・・わ」


 うん。

 なんだか含みのある言い方をしているね。

 何一ついい予感がしない上にペーネロープの表情は若干苦しそうである。


「第二師団で『最強の軍』は私達で間違いないのよ」

「……そっか。もうこの時点で嫌な予感するけど」

「それじゃあ、『個人最強』は誰だと思う?」


 あー……


 なるほど。

 これは最強の個が防衛に割り振られてるパターンだね? 


「正解。第二師団第一部隊大隊長──フェデリコ・グランデーザ伯爵・・率いる防衛最強小隊を、私達たった7人で攻略する必要があるの」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る