己だけが清廉潔白である必要はない
「というわけで姉上、賄賂送るからお金ちょうだい」
「ダメに決まってるでしょ。はい次」
にべもなく断ち切られてしまったのはこのボク、アーサー・エスペランサ。
迫り来る戦いに勝利するために最悪の手段に頼ろうとして、それを成すために必要な資金を要求したら上司の上司に寝ぼけんなカスと叩き返されてしまった。
叩き返したボスはボクの姉であるフローレンス・リゴール。
書類をせっせと捌きつつその美しい金髪を後ろ髪で小さくまとめ上げているのが特徴的。
我が姉ながら美人だな……
ちなみに既婚者です。
「頼むよ〜姉上、それがないとボク負けそうなんだ」
「勝てるでしょ、あんたがその気になれば」
「今のボクは何でもできるスーパーマンじゃないんだけど……」
「スーパーマンになれる資格があるのはこの国であんただけなんだから仕方ないの。そもそも何のために賄賂送るのか説明しなさい」
それはごもっともだ。
訳も言わずただ賄賂を送ると告げればそりゃあ断られるに決まってる。
姉上はツンデレだからね。
ボクに対してツンツンしてるのはデレの裏返しだと思いたい。
思いたいだけである。
「簡潔に言うと、先日知り合った第四師団の女性から
「…………………………詳しく」
姉上は手を止めて眉間を押さえ大きくため息を吐き出しながらそう言った。
そんな面倒ごとを持ち込んだ印象はないんだけどなぁ。
「いやさ、現時点で三番隊……つまりボクらって火力不足な訳じゃないか」
「まあ、あんたが全盛期じゃないんだからそうなるでしょうね……」
「わかってて条件出したの? 鬼」
「出来るだろうと思ったのよ」
「その信頼に応えるために
あれは魔道具に使用されるくらい万能なエネルギー源だ。
特にボクら魔法使いにとっては究極の外付けバッテリーになり得る。
質が悪いとちょっとリスクが高いんだけど……そこは飲み込むことにしよう。
使ったら死ぬ訳じゃないし。
「彼女は第四師団の中でもそこそこの立場だ。漆黒魔道隊のトップと日常的に顔を合わせるような人物なら、一つくらい譲ってくれるかもしれないだろ?」
「それだけじゃ納得できないわね。確かに金銭と引き換えにくれるかもしれないけどそれは相手に弱みを渡すのと同意義よ」
「その通りだ。だからまずは彼女のことを知らなくちゃいけないんだけど……」
ボクの予想だとそれなりに誠実でありながら何らかの理由で第四師団にいるっぽいんだよな。
上司の言い付けも守り仕事にミスが発生しないようにしつつ、自分の評価に傷がつかない場所と状況ならばそれなりに素を見せる。敵対してる組織の人間とそこそこ関係を保つのはまあ、情報を抜き取ったりスパイ行動をするのに好都合だからと言うのはあるけれど……
それだけじゃない気がするね。
少なくとも子供の頃に散々周囲にいた醜悪な大人たちに比べれば、彼女はかなりクリーンだ。
「そのために三日、その後に三日。残った二週間のうち半分を消費すると思うぜ」
「…………
「使うよ、躊躇いはない」
「あんたに言うのはアホらしいから言いたくないけど、リスクが高すぎる。魔力が暴発したらあんた、吹き飛ぶわよ?」
「片腕で抑えるくらいのことは出来るさ。迷惑はかからないよ」
「…………本気で言ってるの?」
「おお、本気だとも。ボクは自分の力量を過信しない程度には自己評価が低いけど、出来る出来ないを見極めることはできるつもりだ」
さてさて、納得してもらえるだろうか。
使用する人間の力量次第で世界を救うことも崩壊させることも出来るのだ。その本質を全く理解せずに己の生活を豊かにするために使用しているのが大半だけど、もしこれを大々的に軍事転用されたら勝ち目はないね。
寧ろどうして転用しないのか不思議だけど……そこら辺はまだ触れられない第四師団が鍵を握ってるかな。
帝国に本気で勝つならその技術は必要不可欠だ。
彼女一人戦場に居ればなすすべなく滅ぶしかない危険性を認知で来てるのが現状ボクと姉上、というのが苦しいね。
「…………」
「…………逆に、なんで認証してくれないのかが気になるな。ボクからすればそこそこ合理的な手段だと思えるけど」
「それは……いえ、なんでもない。そうね、そうよね」
姉上は少し瞠目した後に、己に言い聞かせるように呟いた。
「それで上手くいく保証は?」
「保証はない。でもそれがないと始まらないね」
「……そう。わかった」
「つまり?」
「承認する。権限を超えると判断したときだけ私に話を通して、問題なければカミラへの報告だけでいい。任せたわ」
うむ、姉上はやはり話がわかる。
だからこれはその一歩目だ。
ボクは姉上の従順な駒の一つで構わない。
ボクに壮大な野望はないし、この行動も結局は、姉上が国の腐敗を取り除く気でいるから乗っかっているに過ぎない。
その駒の一つとして、役割と果たすためには──ボクにも手駒が必要だ。
魔力とこの身一つで出来ることなんてたかが知れてるからね。
キミはどうして第四師団にいるのか、そしてなぜその実態を知りながら足抜けしないか。
ボクは知りたい。
キミは優秀だから、是非ともボクと同じ視点に立ってもらいたい。
それくらい出来るだろう?
“レディ“マルティナ。
これでもキミのことは評価してるんだ。
少なくとも今の役立たずなボクなんかより、よっぽど優秀な人間だって。
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