魔王はヤバいってそれ一番言われてるから

※第五話の予備知識


トッポ・クルシュ(黒エルフ)

気が付いたら父親になっていた

娘であるシルバを溺愛し「父親が無職とか恥ずかしい」と魔国でお店を開業

売るのは自家製のソーセージやハム、コボルトが作った野菜

パパ大好きシルバが看板娘として人気を博す

最近ヒトの国と魔国での離婚の法律について勉強している


エメル・ラジャン(白エルフ)

娘がハイエルフと知って歓喜

第二子妊娠を画策するもパパを溺愛するシルバに水際で阻止されており、トッポの知らぬ水面下で熾烈な母娘争いが勃発している


シルバ・ラジャン・クルシュ(白ハイエルフ)

エルフのキッズネットワークで「一番えっちなのはパパ」説を提唱

お調子者で家族大好きで女の黒い感情に無知な男を穢した時のカタルシスはさぞ素晴らしかろうと言うヤベー思想の持主

エメルを毒親認定しトッポと離婚させるための思考誘導に勤しむ

なお25歳の時点で高身長モデル体型にDカップとムチムチの尻と言う奇跡の様な肉体を持つ


ハーメルン

エルフの住む森の南に面した海峡を越えた先にある大陸を支配する魔国の女王。

真祖と言う自己完結の単一種族でワンマンアーミーで国一つ殲滅する戦闘力を持つも、本人はいたって文官気質であり、無数の種族で荒れていた南の大陸を力で制圧し、その上で法律を作って国を纏め、官僚型政治システムを制定し魔国を発展させた優れた為政者。

最近中央大陸のエルフの森に転移門を開き、エルフ族との関係を構築。

魔道具の触媒に最高とされる、精霊に祝福されし古木(エルフが管理する森の木はマナを含んだ木になりがち)を目的とした交易を開始。

牧歌的だったエルフの集落が魔国のインフラ業者が入る事により一気に近代化。

中央大陸南部の沿岸部は一気に国としての規模に発展。

最近魔国の都に出来た食品雑貨の店「くさまみれ」の商品に夢中。

店主の黒エルフに一目ぼれをした。

が、既婚子持ちと知り、まずは看板娘のシルバを懐柔しようと今日もお忍びで店に通う日々である。



 ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡



「パーパ? そろそろランチにしよ? パパ大好きなサンドイッチ作ったよー」

「丁度お客様も落ち着いたし飯にしようか。ありがとなシルバ」

「うん♡ シルバね? パパとお仕事するの大好きなんだぁ♡」

「そっか! パパ嬉しいなっ! よーし可愛い娘の為にパパもっと頑張るぞい!」

「ああ^~パパしゅき♡」

「ん? なんか言ったかい?」

「イってなーい♡」


 酷い温度差である。

 魔国の都の商店街の一角にエルフの店「くさまみれ」はある。

 ここは名前がアレだが、要は生鮮食品を売るスーパー的な店だが、店舗の品出しや会計などは都の主婦の皆様にパートをしてもらっているが、ハムやソーセージを使ったサンドイッチや野菜を使った天ぷらをお惣菜として出しており、その調理をトッポとシルバが担当している。

 ちなみにトッポが揚げ物担当でシルバがサンドイッチ担当だ。

 なのでシルバが持って来たのは賄いである。

 

 しかしだ。

 見事な銀髪にコーヒー色の肌を持つムッチムチ♡なスタイルの色気が凄いシルバが、まるで呼吸をするくらいの自然な流れでトッポの右の太ももに腰掛けた。

 そしてサンドイッチを食べやすいようにちぎり、それをトッポの口元に運びながら「あーん♡」とやるのは正直狂っているとしか思えない。

 とは言え、幼少時からシルバはこんな風にトッポに甘え続けた。

 そしてトッポの集落は夫婦とコボルトしかいない為、トッポはこれが普通なんだと錯覚して今に至る。

 ちなみにくさまみれのパート主婦たちは「エルフって凄いのね♡」と噂をしている。

 ただしこんなエルフはほぼいない。

 エメルとシルバがアレなだけである。

 そんな時だった。


「トッポ様、お邪魔しますよ」

「は? 邪魔するんだったら帰ってくださーい」

「こらシルバ、駄目だよ? メルさんに失礼だろ」

「パパごめんね? 嫌いにならないで? ね? ね?」

「シルバを嫌いになんかなるわけがないだろ? ほら俺はメルさんと仕事の話があるからまた後でな。メルさん、すみません。応接室にどうぞ」

「ははっ、相変わらず”親子”の仲は睦まじいようで。ではな、シルバ”ちゃん”」

「ぐぬぬ…………若作りBBAがよぉ……」


 オレンジ色のフード付きローブを纏った長身の女性が入って来た。

 そしてトッポの見えない角度でシルバとメルは煽り合うが、トッポに先導されてメルは応接室に消えた。

 とは言え軍配はメルに。

 当然だ。商店街を管轄する役場の担当官……というカバーで彼女はここに出入りしているのだから。


 そして応接で向かい合うトッポとメル。

 座った所でメルはフードを下ろした。

 はらりと零れる絹の様な金色の髪。

 妖しく光る真っ赤な瞳。

 服こそ文官の制服だが、それでは隠しきれない気品のある美しさが見て取れる。

 とは言えそれに魅了されないのが我らがトッポ。

  

 むしろ新参者の自分を受け入れ、店舗開業までの手続きをスムーズに取り計らってくれた恩人としか思っていない。

 まあこの人、魔国の女王なんですけどね。

 そもそも何故森に引きこもっていたトッポが店をやり始めたかは、彼の前世のワーカーホリックな性格のため、森の生活の退屈さに飽きたからと、娘に良い恰好をしたいからである。


 さて、メルであるが、彼女は抜き打ちで各省庁を視察するのが日課だ。

 省庁の目的は国家の安定的な運営と住民へのサービスを円滑に行うためだ。

 だが公務員だからと横柄に構える職員も少なからずおり、それを嫌う女王による視察は、常に本人と悟られない変装をした上で行われる。

 まるでミシュ〇ンの覆面調査員の様に。

 そしてダメな部分を発見すると、女王の強権によりカイゼンされる。

 

 その日も抜き打ち調査のつもりで庁職員のいで立ちで商業をつかさどる役場にいたメルことハーメルン女王陛下。

 そこで褐色肌の美貌のエルフ少年(※少年ではない)を見かけた。正直一瞬で女王のジョオウはビッショビショである。なんて美しい少年なのだ……と思った様だ。

 聞き耳を立てると、最近交易を開始した中央大陸のエルフで、都で商売をしたいという申請に来たらしい。

 ただ担当しているゴブリンの男はどうも世間知らずのよそ者と見下し、賄賂を要求している様だ。


 そこでメルは颯爽とカットインし、別室で話を聞きますとトッポを小部屋に案内し、彼が帰る頃には窓口のゴブリンはいなくなっていた。

 そして話を聞けば、最近成長著しい娘の為に、森での生活をやめて都会で仕事をし、その背中を娘に見せたいという目的で商売を始めるとか。

 なので店を開業したら、上に住居を作って都に居を構えたいと。

 そこで娘と同居するらしい。


 戯れに奥方は? と聞けば、トッポは心底忌々しい表情になり、「私事でお恥ずかしいのですが……」と前置きした上で、なし崩しで番となったが、家事はせずに一日中遊んでいて我儘。まるで子供が癇癪を起した様に手が付けられない。

 だから反省を促すために別居もしたいのだと頭を掻いた。

 メルの股間がキュンとした。

 この瞬間、この男の妻から寝取る事を決めた。

 

 こうしてメルはトッポに媚びを売るために最速で店の開業までをアシストし、建物の建築費用も実際の施工も「外から移住される方へのサービスとして魔国が援助する制度があるのです」と嘘八百で女王の剛腕を発揮した。もちろんそんな制度はなく、費用は女王のポケットマネーだが、そんな彼女を側近やブレーンたちが何故止めないのかと言えば、2000年も生きて独身と処女を拗らせた女王が誰かとくっつけば少しは大人しくなるかも……と淡い期待を持っているからだ。

 果たしてその願いは届くのだろうか? こうご期待である。


「それにしても随分と繁盛しておられますね」

「メルさんのお陰ですよ。聞けばこの場所、一等地だとか。新参が良いのでしょうか?」

「気にしないでください。既存の店もあなたの勢いに触発され、新たなビジネスに積極的に挑戦しているようですし、税収もこの地区全体で5%も上昇しています。何よりトッポ様は同業他社に安価で小売りもしてくださってますので、あなたに悪感情を持つ人はおりませんよ」

「そう言って頂けたら安心です……いやあメルさんには感謝してもしきれませんよぉ」

「はぅ♡……こほん、お気になさらずに。今後も役所はあなたのご活躍を後押ししますので末永く・・・お付き合い頂ければ幸いです」

「あはは、メルさんみたいな美しい人にそう言われると照れますなっ!」

「ふぁい……しゅき……」

「ん? 何か言いました?」

「な、なんでもないですよっ。で、では今日はこれで失礼します」


 そして脱兎の如く帰って行くメルの背中を見送り、首を傾げるトッポであった。


「さって午後も頑張りますかっ! ってあれ? なんでソファーが濡れてんだ? ったく掃除しなきゃ」


 雨漏りでもしたのかな?

 そんな事を思いつつ、トッポは工務店に連絡をしたのである。

 なお建物に異常はなかった模様。




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