第46話 密航者とゲームの関係性
「ゲーム」
タカルは寝起きのぼんやりとした感触に包まれたままそう言った。
「どうやら私たちは何かに支配されてるらしいのよ。しかも密航者がいる事は確定したって。ますます変だわ」
ロイムも心安らかではないようだ。傍らにはボニーがいる。何のことか理解がつかないらしい。
「とにかくだな…俺らは生き残らないと。誰も死なずに。そして安寧の地になり得る場所に辿り着くんだ」
「そうあってほしいけど、でもそれを決めるのはキャプテンなのよね。そして私達は従わないといけない。勝手な行動は、少なくともこの宇宙ステーションの乗組員である以上は許されないし」
「ああ…そうだな」
談話室では複数の顔触れがあった。サコヤ、キオ、名無しの山本、そしてBO0である。全員が神妙な面持ちで話している。
「密航者が、支配の張本人ですって?」
サコヤが眉間に皺寄せながら言った。キオが頷く。
「そう考えた方が手っ取り早いとは思ったんだ。しかもこの宇宙空間で、俺達を好き勝手に『飼える』とすれば辻褄が合うし?」
「密航者がいるのはもう疑いようがないでしょう。しかしそうなると密航者本人はどこに隠れているか、が問題です」
BO0はそう言った。
「隠れられそうな場所…」
「でも、我らは20人もいるんですよ?見つからない方がおかしいと思いますが…」
名無しの山本が顎に手を当てながら言った。
「みんなそう思ってると、考えてな。エイドリアン達に宇宙ステーション内のあちこちを捜索させてる」
ガーディアンが現れ、そう回答した。
「後手になってしまったのは悪かった。果たしていつ見つかるかはわからん、だが少なくとも密航者にこれ以上好き勝手にさせるつもりはない。安心しておけ」
「しかし、ガーディアンさん。真っ先に宇宙空間に釘付けにされてしまってはまずいです。月か火星に降りるべきでは?」
サコヤが言った。だがガーディアンはそれには答えない。
「…キャプテンは、『ナバマーン』内における安全の保証は全面的に任せてくれていい、と述べた。緊張はせず今までのように生活を送ってくれ。それじゃ」
ガーディアンは踵を返して行ってしまった。キオとサコヤは顔を見合わせる。
「なんか変だぞ」
「どう見ても変だわ」
「密航者がそんなに恐ろしいのかな?」
「さあ…?でも…安心しろとは言われたし、恐れているというより、」
「何か勘づいている?」
果たして密航者なる存在が、『ナバマーン』に搭乗する者全員を支配しているのだろうか。全く手掛かりはない。だがこれだけは言える。キャプテンたるナオコ・カンは何か重要な事を黙っている。態度が一層硬化しているのが、キャプテンを補佐するガーディアンの素振りからも滲み出ているのだ。けれども乗組員達はキャプテンを疑いはしなかった。彼女無しではどうしようもできないのだから。
ロイムはボニーに読み書きを教えている。タカルは辺りをウロウロしながら仲間たちと会話を重ねていた。心なしか、皆がイトカワにいた時よりも笑顔が萎縮しているようだ。ボニーのための宴では笑顔が溢れんばかりだったが…密航者とゲームなるものの存在に接近してからは物言わぬ冷ややかな金属の塊にも似た心象がそれぞれに成立したかのようであった。
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