隔離編
第45話 ゲーム
「やっぱりおかしいぞ」
ガーディアンは腕組みして考えていた。クルー達は一足先に起床し、会議室に集合した。キャプテン直々に重要な話があるというのだ。
「キャプテン、話とはなんです?」
エイドリアンが怠そうにしながら足をテーブルに置いた。ナオコ・カンは振り向き、帽子を被り直した。
「ああ、これは『ナバマーン』にいる者全員の安否に関わるかもしれない話だ」
「は?」
「密航者がいるかもしれない」
「キャプテン…やはり、そうでしたか」
ミンタイウが宙を見上げ、納得の表情を浮かべた。
「なんだ、ミン。心当たりがあるのか」
「ええ。食糧が減るペースがおかしいんです」
「そりゃ、昨晩に宴をしてドンチャンしたからじゃないのか」
ウェセンが言った。ミンタイウは首を横に振る。
「イトカワに着く前にも密航者がいるかもしれない事を皆で話しましたよね。その時に言おうと思ってたんですがね…おかしい。朝起きると何かしら食い物が、消えてる」
「おい、なんでそれをもっと早く言わなかった!?」
「落ち着け、ガーディアン。しかし証拠が出てきたとなると…疑いようもないな」
ナオコ・カンは椅子に座りながら言った。
「どうするんですか、キャプテン」
「…とにかく、状況を整理だ。まず、密航者がいるのは間違いない。そいつは極めて賢く狡猾だ。なにしろここ2週間ばかり我らに遭遇しなかったんだからな」
「でも、イトカワから乗り込んできたとも考えられますが」
U19が言った。ガーディアンはそれを否定する素振りを見せた。
「そんなわけあるか。あの馬鹿どもが脱出ポッドで飛んでいっちまったのを忘れたか?誰かがこっそりいじったから脱出ポッドが作動したんだ」
「もしかして、我らをふるいにかけているとか?」
ディコが言った。全員の視線が彼に向けられる。
「役立つ者だけをこの『ナバマーン』に残しておき、他はどんな手を使ってでも
排除する…あるいは消す、とか」
「おいおい何を恐ろしい話するんだ、ディコ!そんな事言ったら俺らは誰かに監視され、掌握され、生殺与奪の権利を奪われてるようなもんだぞ」
ガーディアンが突っ込むも、場は和やかにはならなかった。むしろ、全員が黙ってしまった。宇宙空間で共に長い時間を過ごしてきた仲間達。彼らは目に見えぬ懐疑に囚われた。
「ゲームだ」
ナオコ・カンはボソリと呟いた。
「これはゲームだ。生き残りをかけたサバイバル…深宇宙でそれが始まろうとしている」
「いい加減にしてくださいよ!!キャプテン、あなたまで狂い出したんですか!?怒りますよ!!」
ガーディアンは頭から湯気が出そうな勢いで叱咤した。
「ちょっと待て。役に立つやつだけ残るって言ったよな。じゃあなんであの酒飲み女やキチガイ宗教家はまだ残ってる?肉体労働ができる男集団より何もしないでくだ巻いてるあいつらが真っ先に消えると考えた方が効率的ではないのか?」
ハイクロが言った。
「それはわからん。だが密航者もそうだが、何かが我らを掌握してる。おそらく…この『ナバマーン』の中で我らは生き残りを争うようにされてるんだろう」
「『されてる』って…、キャプテン。俺らは独立した自由型宇宙ステーションにてビジネスをするいわば宇宙の流者ですよ?誰が俺らを支配できるもんか」
「ガーディアン。今は既存の理論はしまっとけ。事態は急転した、新たなフェーズに移行したんだ。…で、結論だが、密航者の件含め、今話した事を他の皆に伝えてくれ。宇宙ステーション内での生活は今まで通りでいい」
そう言い、キャプテンは会議を終了した。なんとも言えぬ後味の悪さと蟠りが残った。
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