第43話 歓迎の宴

 『ナバマーン』はイトカワを出発し、再び宇宙の旅を始めた。イトカワに滞在したのは1週間ほどだったが、それでも久しぶりに乗組員達は人の集団に会うことができ、各々に満足した。


 タカルが部屋にて寛いでいると、俄かに部屋の外が騒がしくなってきた。喧嘩や言い争いではない、喜びと興奮に満ちた喧騒だ。何事かとドアを開けてみると、廊下を誰かが踊りながら進んでいる。エイドリアンだ。

「探し物はなんですか、見つけにくいものですか、鞄の中を机の中を…」

 酒の瓶を手に、かなり酔っ払っている。

「いったいどうしちゃったんですか、エイドリアンさん?」

「ん、おお、タカルじゃないか。我らの頼れる仲間、タカル。見た通りさ、今日は宴だ。パーティーさ」

「宴?パーティー?」

「何とぼけてんだ、お前が連れてきたガキだよ。あいつが仲間に加わったのを祝して、今からドカンと宴をするんだ。お前も来い」

 エイドリアンはタカルを引っ張っていった。


 ダイニングはこれでもかというほど賑わい、しかも豪奢な飾り付けがされていた。乗組員の皆が集まり既に酒を飲んでいる。テーブルの中央にいるのはボニーだ。ナオコ・カンもそこにいる。

「…で、私はいろんな人の世話をしながら生きてたんです」

「なるほどね。お姉さんも昔は君と似た生活だったのよ」

 彼女達はジュースを片手に話に花を咲かせている。それを眺めていたタカルの肩に誰かが手をかけた。

「パーティーは好きでしょ、タカル」

 ロイムだ。酔っているようではないが、もう片方の手に発泡酒の缶を持っている。

「まあ、ハレの日ってのは嫌いじゃないけどな。こういうのは社交的でないと気後れしちまうから…」

「そんなことはどうでもいいのよ、さああなたも飲んで…ああそうだったわ、酒は苦手だったわよねごめんごめん」

 酔っているのかシラフなのか、全くタカルには判断ができなかった。しかし、美味しそうな匂いが嗅覚を刺激して自然と宴に混じる事を決めたのだった。


「ええ〜と…おほん。『ナバマーン』の皆、今日は特別な日だ。新しい家族が加わる。ここにいるボニー・ブロックがそうだ、彼女は宇宙時代の最前線にいる、宇宙ネイティブ世代。そして…」

「まあ、堅苦しい説明はいいでしょう。乾杯しましょう、キャプテン」

「お、そうだな。じゃあ『ナバマーン』と新たな仲間に乾杯」

「乾杯!」

「乾杯!!」

「カンパ〜イ!」

 乗組員達はグラスを掲げて乾杯した(タカルのように酒が苦手な者、ディコのように宗教上の理由から酒が飲めない者、そしてまだ未成年のボニーはジュースを飲む)。テーブルには料理が並べられた。中国料理だけではなく、ヨーロッパ風の料理や日本料理もある。

「こりゃ豪華なメニューが揃い踏みだな」

「でしょ?私とアルスが頑張って用意したのよ」

 サコヤが自信満々に言った。

「いやあ、正直言って料理が上手いやつはここには俺しかいないと思ってたがね。見直しちまったよ」

 ミンタイウが頭をかきながら紹興酒を口に運んだ。タカルは料理の中から寿司らしきものを取って口にしてみた。美味い。米の味と魚の味が口の中で盆踊りを踊り始めた。思えば、数週間、いや数ヶ月も和食というものを口にしていなかった気がする。タカルは感動で胸が詰まりそうだった。

「さあ、みんな飲んで食ってくれ。今日は無礼講って事にする。金もたくさん手に入ったしな。しばらくは『ナバマーン』は安泰だ!」

 ナオコ・カンは笑みを浮かべてそう言った。

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