第41話 出発!
ランディング・パッドでは、『ナバマーン』のクルーらが動き回り、点検と様々な準備をしている最中だった。ナオコ・カンは彼らに支持を出している。
「ウェセン、エンジンはお前に任せる。エイドリアン、必要な物資の補充はされてるか確認してくれ。チャンドラ、ここで使った分と『サーリント・ドール』を解体して沸いた分をまとめておいてくれ、あと…」
タカルもまた、宇宙ステーションでの生活に戻るという事に気を引き締めていた。再び宇宙のど真ん中か。次なる目的地はなんだろうか。
「キャプテン、ちょっと」
ガーディアンが手招きし、ナオコ・カンはそちらに行ってしまった。タカルは『ナバマーン』を眺める。ランディングパッドの巨大な虫籠のような設備に収まっている自由型宇宙ステーション。全体をぐるりと見渡すとまるで邸宅のように見えてくる。
「こうしてじっと見る機会はなかっただろ」
ハイクロが話しかけてきた。左腕にノートパソコンを抱えている。
「ええ、『ボランシェ』から乗り込んできた時にも全体像ははっきりとは見ませんでしたし、こうやって見るとなんか、新鮮な気分です。これが我らの家なんだなと」
「そう言ってくれると嬉しいよ。宇宙空間を行き来する家だ、自由型宇宙ステーションてのは。これからも仲間が増えるかもな」
「もう既に一人、増えてるわよ」
タカルやハイクロのとは別の声がした。ロイムだ。いつものラフな服装に着替えており、傍には少女がいた。『サーリント・ドール』で見つけた少女。数日前までは暗い表情だったが、今や笑顔が浮かんでいる。
「やあ…そう言えばその子、連れて行くのかい?」
「当たり前じゃない。今日からボニーも家族よ」
「ボニー?」
「ああ、そうね。名前を教えてなかったわ、ボニー、自己紹介できる?」
少女はこくんと頷いた。
「私はボニー・ブロックです。アメリカから来ました。宇宙は初めてですけど、友達が増えて嬉しいです」
「ボニー・ブロック。いい名前じゃないか」
ハイクロが相槌を打った。タカルも頷きつつ考えた。アメリカ人か。確かに最初に出会った時、自分と同じ民族では無いとは直感的に分かったが。しかしこの変わりよう…あの教授の催眠は本物だったのかもしれない。
「よろしく、ボニー。ボアツキ教授には感謝しないとな、ロイム」
「そうね、正直催眠療法なんて信じてなかったけど。ああ、そうそう、実はねこの子、ビーク君とすっかり仲良くなっちゃって。お兄ちゃんって呼ぶようになったのよ」
「ビークが…?」
「へえ、よかったじゃないか。すっかり家族だな。血の繋がりがなくて出身も民族も違うが、心を通わせれば家族さ。そう思うだろ?」
ハイクロが言った。
『ナバマーン』はイトカワを発つ準備が終わった。あとは乗組員全員が集合するだけである。しかし問題があった。
「おい、あのキチガイ野郎はどこに?」
ガーディアンがキョロキョロしている。誰かを探しているようだ。
「もしかして、教祖を探してます?彼ならロビーにいますよ」
キオが言った。ガーディアンはそれを聞いて大きくため息をついた。
「全く…バカなやつだ。あいつめ、ろくに仕事もしないしな…」
「置いて行っちまおうぜ」
エカテリナがキオの横から小さな体を覗かせて言った。
「それは理不尽ですよ。私とタカルで彼を連れてきます、待っててくれませんか」
ビークが現れてそう提案した。
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