第33話 新居住計画

「地球が無くなったからどうする、だって?なんでそんな事をわざわざ俺に聞くんだ」

 おじさんはタバコに火をつけながら言った。ナオコ・カンは席についたまま、ぽかーんとしている。ガーディアンが突っ込む。

「いや、おじさん。真面目な話ですよ。我々人類の故郷だった地球が…住めなくなったんです。知ってるでしょ?」

「もしかして俺がボケ老人になったと思ってたか?ダウトだ、地球の件はよくわかってる。だから人類は宇宙へ、そして新たな新天地を探しに出たんじゃないか」

「でも…月や火星は、生態系が存在しないのよ、おじさん?植物や動物がいない場所では人類文明の再構築なんて…」

「それを、スペーススカベンジャーや『ブラフマン』やらが既に準備してきたんだ」

 タバコを吹かしながらおじさんはそう言った。ナオコ・カンもガーディアンもぽかーんとして、木偶の坊の如く固まっている。おじさんは机の上に置いてあるスイッチを押した。床が光り、ホログラム映像が浮かび上がってきた。

「見てみろ。限界を迎えつつある地球だ」

 かつての姿をとどめている、懐かしき惑星が映し出された。青く、生命に満ちている。

「もはや爆発寸前だった。火事が起きている家から逃げ出さない馬鹿はいないだろう?宇宙という開かれた新たな大海原へ賢い人類は脱出したんだ。『ブラフマン』のような頭のきれる金持ち、宇宙に希望を見出した投資家、俺のようなならずものがな」

「けれど宇宙開発には相当な時間が要されるんでは?しかも他の惑星を開発するなど…」

 ガーディアンは首を傾げる。

「実はな。地球の人類が知らない間に開拓は進んでいたのさ。今や小惑星は補給基地となり、月には新たな地底都市が出来ようとしている。経済システムが整い、いずれは太陽系全体を包括した連合政府もできるだろう」

「…あまりにぶっ飛んだ話でなんと突っ込めばいいのかわからないよ、おじさん」

「ふふん。ナオコ、ガーディアン、お前もタバコ吸え」

 おじさんは懐から金属の小箱を取り出し、一本ずつ紙巻きタバコをナオコとガーディアンに渡した。先端が赤くなり、香ばしい香りが広がる。

「…うまい」

「そうだろう?こいつは月のタバコだ」

「え!?月でタバコが…??」

「馬鹿な、月には水も空気もないじゃないですか。ですよね、キャプテン?」

「ちゃんと話を聞けよな。さっきも言ったが、月は表面の地表ではなく、地下が開拓されている。地底空間があったのさ。そこを空気で満たし地球の土壌を持ち込み、例えるならば『ミニ地球』が出来上がった。このタバコの葉はそこでできた」

 ナオコ・カンもガーディアンも、手に持った一本の紙巻きタバコを見つめて黙った。おじさんは得意そうだ。別のスイッチが数回押され、今度は無機質でゴツゴツした天体が浮かび上がった。月だ。古来より人類が見上げ、また1番最初に到達できた場所である。

「どうだ。ここが我ら人類の新たな住まいさ。地球は無くなったが、もう地底の環境だけで8割は足る。あとは試行錯誤してそれを増やすだけだな。お前らも宇宙空間でぼんやりと浮かんでないで、月でのんびりと暮らしたらいいんじゃねえか?」

「いや…それは、また後にしよう。ああ、それよりもおじさんに頼みたい事があるんだよ」

「なんだ?」

 ナオコ・カンは牽引してきた『サーリント・ドール』の話をした。言わずもがな、おじさんはこれに理解を示してくれた。

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