第32話 おじさんとナオコ・カン
タカル達がボアツキ教授のところにいたのと時をほぼ同じくして、『ナバマーン』にクルー達が数人、集まっていた。キャプテンのナオコ・カン、一等航海士のガーディアン、二等航海士のエイドリアン、そしてエンジニアのウェセンである。
「で?キャプテン、そのおじさんとやらは本当にここにいるんですかい?」
エイドリアンが気怠そうに言った。彼はバーにて酒を飲んでいたのを強制的に連れてこられたのだった。
「まあそう言うな。彼がいるから俺らはここに来たんじゃないか」
ガーディアンが嗜める。ナオコ・カンはイトカワのスタッフと話している最中だ。
クルー達のいる場所の左奥にあるドアがすっと開き、作業服に身を包んだ小柄な男達を従えた初老の男性が出てきた。すっかり灰色になった髪、それと同じ色をした髭。オレンジ色のポロシャツにカーキ色のベストを身につけ、ネッカチーフをつけている。ラニングのそれとは違う格好である。まるで遊び人か、ギャンブラーのような出立ちだ。
ナオコ・カンは男性を見ると、スタッフとの話もそこそこにして男性のほうに駆け寄った。
「久しぶり!おじさん!」
まるでティーンエイジャーの娘のような軽やかな声を彼女は発した。いつもの陰鬱ながら厳格な雰囲気とは大違いだ。
「おお!もしかして…ナオコか!」
「そうだよ〜!おじさん!ガーディアンもいるよ」
呼ばれて、ガーディアンも男性の方に歩いてきた。エイドリアンとウェセンもついてきた。
「ご無沙汰です、おじさん。5年、いや6年か7年ぶりですかね」
「いやあ、お前らも成長したな。難民みたいだったあの頃とはえらい違いだ。しかもあんな立派な宇宙ステーションを仕切ってる。まさに宇宙時代の申し子だ」
「いえいえ…俺らはまだまだですよ。おじさんこそ、イトカワを拠点にしてビジネスを展開してるそうじゃないですか」
ガーディアンは腰を低くして『おじさん』と会話していた。『ナバマーン』内での恫喝や高圧的な態度はかけらも見られない。
「ビジネスっつっても、イトカワを管理する中間管理職だけどな。しっかしナオコにガーディアンよ、お前らはよくやってる。こんな宇宙という大海原のど真ん中で、優秀な仲間を見つけて日々、稼いでる。それだけで百点満点さ」
「ううん、それはなんといってもおじさんのおかげだもんね、ガーディアン?」
「まさにそうです。…そういえば、おじさんにうちのクルーを紹介した事なかったな」
「確かに。えっとね、今までは私とガーディアンを含めて10人のクルーがいたの。それがついこの前…地球があんな事になった際に14人が新たに加わって、今はなんだかんだで4人減って合計20人よ」
「なるほどな、なかなかいいじゃないか。いずれお前らも、チーフ・ラニングのような大物になれるかもしれんぞ?」
「それはまだまだですよ。…おい、お前ら。彼は俺とキャプテンが昔、世話になった人だ。『アンクルおじさん』、または『おじさん』って呼ばれてる。とりあえず自己紹介しとけ」
ガーディアンがエイドリアンとウェセンに言った。
「ああ、はいはい。どうも、俺はエイドリアン・プラトライトン。二等航海士をやらせてもらってます」
「あっしはエンジニア兼メカニックのウェセンといいます、どうぞお見知り置きを。唐突ですがスペーススカベンジャー達と我々は取引をしたいんですが、何かご教示願えませんか?」
「おお、なかなかいい筋をしておるな、君たち。まあ私もあくまで1人の渡世人で大した事はできねえけども、ナオコとガーディアンのために人肌脱ぐくらいは朝飯前さ。んじゃ、ついてきな」
ナオコ・カン達はおじさんについていった。この一連の話を、先ほどの小柄な男達がずっと聞いていたのは誰も気づいていなかった。
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