第31話 少女の告白

 ボアツキ教授は早速とばかりにノートを取り出し、タカル、ロイム、ビークに質問を始めた。

「さて、君たちはどのようにしてこの少女に出会ったのかな?」

 ボアツキ教授が椅子に腰掛け、無作法にも片足をテーブルに乗せながら聞く。

「ええと、私たちはとある自由型宇宙ステーションからのメッセージを受け取ったんです。これが始まりだった。そしてメッセージを送ってきた宇宙ステーションそのものを見つけ、生存者がいるか確かめた、で、この子を見つけたんです」

「ふむ。彼女しかいなかった、と」

「それで、保護したんですが…ああそうだ、実は見つけた宇宙ステーションで、集団自決が起きたみたいなんです」

「何、集団自決だって?」

 ボアツキ教授は、ぱっとタカルの方を振り向いた。

「たくさんの遺体と、さらにキャプテンらしき人物が自殺しているのを見つけました。少女1人だけ無事だったのは、おそらく自力でその惨劇から逃げたか、もしくは誰かの手引きで隠れていたか…」

「まあ大体わかった。おそらくその集団自決による心理的外傷が原因で、こいつは口を聞けなくなったんだ。安心したまえ、すぐ口を聞くようになる」

「でも、どうやるんです?」


 ボアツキ教授は少女を連れ、隣の部屋に入っていった。数分経ち、タカルとロイム、ビークも入室の許可を得た。部屋に入ってみると、そこは先ほどの部屋とは打って変わって無機質な空間だった。真っ白な壁に囲まれ、一つとして家具や調度品は置かれていない。真ん中に少女が座り、俯いている。

「さて。これからやるのは催眠療法だ。君たちは催眠術を非科学的な、そうだな、オカルトやら超能力といった類いの技術だと思っているかもしれない。けれどそれは間違いだ。催眠術が科学的に正しいことは証明されている」

 ボアツキ教授は謎めいた事を言い出した。タカルは理解できず、頭の中がぐるぐるし出した。まるでついさっき、ワインを飲んで酔った時のように。

 ボアツキ教授はタカル達に構わず、少女の前に立った。そして指先を差し出した。

「君はだんだん体の力が抜けてくる…そして眠くなる。はい、眠った」

 と言った瞬間、ガクン、と少女の首は項垂れ、目が閉じられた。

「…!?」

「これで準備完了だ。どうだね?催眠術はやらせでもフェイクでもない。人類が未だ理解できないレベルの科学さ。タカル君、君にも催眠をかけてみようか?」

「あ、え…い、いえ。結構です」

「そうかい、では早速始めるか」

「え、もう始まるんですか」

「当たり前だよなぁ?今、この子には催眠がかかっている。ここで私は彼女に質問する。そうすれば彼女は回答をしてくれるのさ」

「…」

 タカルは半ば信じられなかった。いや、8割は信憑の範疇外だったかもしれない。ロイムも同じように感じていたはずだ。ビークは相変わらずだ。

「君は、宇宙ステーションの中で何を見た?」

 ボアツキ教授が少女と向き合い、問いかける。

「……入ってきた…」

 少女が喋った。催眠術にかかっているとはいえ、とてもか細く、まさに蚊の鳴くような声だった。

「入ってきた?何が入ってきたのだ?」

「わからない…怖い人たち…武器を持って…」

「彼らは何をしたんだ?」

「皆を…撃って…どこかへ行った…」

「彼らが何者か、心当たりはあるか?どんな姿をしていた?」

「英語を…喋ってた…」

 タカルもロイムも同じタイミングで顔を見合わせた。集団自決が起きたんじゃないのか。誰かが、自分たち『ナバマーン』の乗組員より先にやってきた…?しかも英語を?タカル達は皆、日本語で会話をする。キャプテンのナオコ・カンがそう決めているからだ。

「どうやら、別の要因があるみたいだな」

 ボアツキ教授は言った。そしてまた、少女に向き直った。

「君はここで催眠が解ける…はい、解けた」

 少女は目を開けた。そして周りを見渡した。

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