第6話 何をなすべきか?
談話室の人々は自己紹介を終えたが、それでも安心できてはない。まず第一に現在の状況だ。地球が崩壊?信じられない。だが避難民は『ボランシェ』に全員乗っており、タカルのように地球が物理的に壊れていく様子を見た者もいる。『ナバマーン』のクルーのうち、エイドリアン、ディコ、ハイクロは地球崩壊の瞬間を見たようだ。
「いったいどうすれば…」
「家族も、財産も失った…」
「ナオコさん!あんた、この宇宙ステーションのキャプテンなんだろ!?なんとかしてくれよ!!」
ナオコ・カンは返答はせず、側にいるガーディアンに目配せした。ガーディアンは頷き、前に出る。
「落ち着いてほしい。キャプテンは既に策を練っている。さっきも言ったが、君たち全員がこの今、生存している事自体が一番ラッキーなんだ。地球にいた人々は確かに失われたでしょう、けれどこの宇宙ステーションで生き延びている我々24人が協力し合って活路を見出さなければならない。そうだろう?」
「お…おう!その通りだ!」
タカルは無意識に、ガーディアンの発言に追従した。ガーディアンはにっと笑い、タカルに対してサムズアップした。
「そうと決まれば、やる事は明確だな。全員が生き延びるために、まずは君たちそれぞれに役目を、つまり『ナバマーン』にいるにあたってやってもらう事を我々クルーが割り当てようと思う。何か質問は?」
「それって、働くってこと?」
ロイムが発言した。
「表現によってはそうだ。けれどこれは『自分達が生きるため』だ。『他人を肥やすため』じゃない。…ああ、もちろん、他者に対する心がけや幇助、助け合いはするべきだぞ。『自分とと共に仲間も生きる』ってところか」
「十分に可能でしょう」
今までタカルの側でじっとしていたビークが口を開いた。
「24人全員がそれぞれ出来る事をこなせば、ある程度は持ちます。進路はどちらへ?月ですか、火星ですか?」
「進路については…まだ決めない」
ナオコ・カンがぼそっと言った。ビークは冷静ながらも怪訝そうな表情を浮かべた。
「何故?宇宙空間にずっと浮かんでいては燃料が尽きてしまいます。水と食料についても然りです。食べ物が僅かになり追い込まれた生存者は争います。そうなれば…」
「待て、待てビーク」
タカルがビークの発言を食い止めた。
「そんなネガティブな話をしてもしょうがないだろ。とりあえず24人がそれぞれ何をやるか決めるべきだ」
この発言を聞いたナオコ・カンはタカルに向かって微笑みを見せた。
「お、そうだな。それが必要なんだ。クルーの指示に従って色々な事をみんなにしてもらいたい。うちの一等航海士のガーディアン、二等航海士のエイドリアンに振り分けを任せようと思う」
「任せてくだせえ。俺は元詐欺師、人と人との関係性とかはよくわかる」
「悪人だった事を誇っているように聞こえるぞ」
ガーディアンがエイドリアンにツッコミを入れた。談話室が小さな笑いに包まれた。
こうして『ナバマーン』の乗員達のやりとりに進展が見られた。男が18人、女が6人。まず最初に力仕事をするメンバーが募られ、キオ、名無しの山本、泥棒4人組がこれに名乗りを上げた。彼らはエイドリアンの指示のもと、エンジニアのウェセンや武器管理係のミゲル、情報係のハイクロと協力して船内での活動を行う事になった。
続いて宇宙ステーション全体の管理をする役目が決まった。ガーディアンを指示役とし、ビークとロイムがこれに抜擢された。ビークは名目上の経営者としての腕前を買われ、ロイムはリーダーシップを取れそうな女性、として選ばれたのである。
エカテリナは会計係のチャンドラの補佐を務める事になり、マレスは通信士のディコのサポートを、料理学校を卒業したというサコヤと、被服学校を卒業したというアルスはミンタイウと共に調理とリネンを担当することになった。BO0はU19と一緒に医療担当を任された。
残ったのは綾瀬教の教祖(クルーからは『キチガイ』、その他乗員からは『教祖』と呼ばれる)とタカルだけになった。
教祖がいきなり、閉ざされていた口を開いた。
「私には司祭か、あるいは啓蒙係を任せてください。苦しみと絶望に取り残されたみなさんを救済する方法を私が綾瀬はるか様の力を借りて見出します!!」
ガーディアンは聞こえなかったふりをし、エイドリアンはやれやれと言った様子である。結果、教祖は雑用係に回された。
「あのう、俺は何をすれば?」
「ああ、君か。キャプテンの部屋へ案内する。ついてきてくれ」
ガーディアンと共に、タカルはナオコ・カンの部屋へ向かうことになった。
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