第5話 ようこそ『ナバマーン』へ

 ナオコ・カンの咳払いでタカルははっと現実に引き戻された。そうだった、今の自分は自由型宇宙ステーションに便乗し、クルー達の自己紹介を聞いているのだ。ナオコ・カン。なんと聡明な人物だろう。10人いるクルーのうち、女性は彼女だけだ。しかし屈強そうな男、賢そうな男らをキャプテンという最高レベルの地位にてまとめている。どうやら頼れそうな人かもしれない。

 ナオコ・カンはまだ話を続けている。

「生存には協力が不可欠だ。人類もそうやって歴史を作ってきた。そうだよな?て事で、話を聞いてくれてる皆も一人ずつ、自己紹介をしてほしい」

 クルー10人を除けば、この談話室には14人がいる(タカルとビーク含む)。男性の他女性もおり、肌の色や着ている物も違う。と、1人の男が挙手した。

「私が最初でいいですか。私はキオといいます。『ボランシェ』で宇宙空間の温度計測をしていました、どうかよろしく」

 タカルはこの男が自分と同じ、ビークの実家が経営する企業で働いている者だとすぐわかった。次に話し始めたのは複数の女性たちだった。

「私はアルスといいます。私たち4人は『ボランシェ』に遊びに来てたんですが、突然こんな事が起きて…今でもわけがわからないし落ち着きが取り戻せません。さっきまでは美味しい料理とお酒を楽しんだり、演劇を観て大笑いしてたのに」

「ええ、確かに受け入れられないわ、この状況が。でも生きてる。頼れそうな人もいるし、希望を捨てるわけにはいかない。私はロイムです」

「サコヤよ」

「マレサだぜ」

 すると、クルーの1人、コックのミンタイウが立ち上がって2人の男女のペアに近づき、女性のほうに屈んで酒の瓶を差し出した。女性…らしきそれは小さな腕で瓶を掴むとぐびぐびと中身を飲み干した。

「ぷはあ。やっと酒にありつけたわ。ありがとうありがとう」

「…」

「お、おい、なんでガキが酒飲んでんだ」

 ガーディアンが目をぱちくりさせながら言った。

「何を言ってんだか、私はガキじゃないわよ。あんた、説明してあげて」

「ああ…、失礼しました。私は『名無しの山本』、彼女は私の妻のエカテリナです。彼女は仕事でとある国際犯罪組織に所属していたんですが、28年前にとある政治家を暗殺する任務を計画しまして。計画は上手くいったんですが組織が公権力によって強制操作をされてしまい、結果として妻はその責任を負う形で幼い子供の姿にされ…」

「まあそんなところさ。あたしは酒がないと気分が悪くなるんでね、この宇宙ステーションでもよろしく頼むよ」

 タカルは呆れてため息をついた。それはクルーの10人も同じだった。

 次に自己紹介をしたのは4人組の男達だった。彼らはならず者で、『ボランシェ』にいた理由は泥棒をするためだったという。ビークが怒りやすい性格でなかった事は幸いである。

 残りは4人。このうちタカルとビークを除いた2人がそれぞれ、とにかく変わっていた。まず話し始めたのは、先程ガーディアンに殺害予告を受けたキチガイである。

「みなさま、このような不運に見舞われ心からの同情、そして祈りを捧げます。えー、私はかつて地球の事にも宇宙の事にも何ら興味なく、毎日をただ無意味に過ごすばかりでした。しかしある日の事、私の夢枕に綾瀬はるか様が立ったのです。そしてこう言われました、『私の真の姿は天照大神であり、日本列島のみならず地球を守る神である。昨今の地球の荒れ模様に心が痛む。そこで其方に私の言葉を伝える伝道師の役目を与えよう。日が昇ると同時に私に祈り、日が沈む度に私に祈りなさい。そして全人類に私を崇めるよう伝えなさい』と。この時から私は綾瀬はるか様を天照大神として崇拝する『綾瀬はるかの地球の愛』、人呼んで『綾瀬教』の教祖となったのです。さあここで!僭越ですが少々お時間をいただいて綾瀬教とはいったい何か、説明させていただきましょう!!」

「あー、悪いがその話は省いてくれんかな」

 ガーディアンが嫌悪の表情を浮かべながら言った。

「いえ、ほんの6時間くらいでまとまるんですよ」

「それがダメだと言ってるんだ」

「神罰が降っても知りませんよ」

「うるさい。ほら、次の人、自己紹介してくれ」

「ちっ。悪魔の手先め」

「なんだと!?」

「まあまあ…落ち着け、ガーディアン」

 ナオコ・カンの介入で修羅場は避けられた。

 次に喋り出したのは一体のロボットだった。円錐形のボディを持ち、ボディから多くのアームが飛び出てくる。どうやら医療ロボットのようだ。

「BO0です。この船に医療ロボットはいるんでしょうか?」

「いや、いないな。誰か怪我した時はU19に手当を任せてたが」

「私にも協力させてください。乗員が増えたわけです、労働力も増えます。何かあったら手伝います」

「いいね〜。ぜひ頼むよ」

 タカルとビークの番になった。

「俺はタカル。『ボランシェ』で働いてました。」

「ビークです。形だけですが『ボランシェ』の経営者の1人です」

 キオが身を起こした。

「あなたが?私たちの上司!?」

「いえいえ、あくまで私の実家が『ボランシェ』の経営陣なだけで…何も気遣う必要ないですよ。…『ボランシェ』も、もう無いですし」


 こうしてメンバーが揃った。クルー10人に『避難民』14人。こうして旅がようやく始まるのである…!!!









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