ifルート 宇宙が彼らの墓場となる

「は?」

 ランディングパッドにたどり着いたタカルの第一声はこれだった。

「ボートが残っていません」

 ビークは相変わらず、冷静である。もしかしたら彼はサイボーグどころではない、本物のロボットなのかもしれない。巨大なモニターはボートが全部発進した事を示し、そして脱出ポッドの全てが『empty』と表示されている。

「どうする!?俺たちは取り残されたのか!!なんで!?許せん、これは人種差別だ!!選民思想を掲げているユダヤ人のせいだ!!ハイル・ヒトラー!!ユダヤ人を殲滅せよ!!」

 タカルは悔し紛れに叫んだ。広いランディングパッドに虚しく彼の大声が響く。

 ビークにしてみれば、この宇宙ステーション『ボランシェ』が旧式で、ただ軌道上をぐるぐる回るだけなのが残念だった。もし新型であれば軌道からやすやすと離脱してどこへでも行けるだろう。

 もはや行き場は無い。行き止まりだ。人間は生身で宇宙を泳ぐ事はできやしない。宇宙服を着たとしても、遊泳したところで地球という帰る場所が無くなっているのだ。

「終わりですね」

 ビークはつぶやく。操作機器から手を離し、床に座り込んだ。絶体絶命とはこの事だろう。

「あああ、こんな事なら宇宙なんか行かずにマルクス・レーニン主義に関する研究を続けりゃよかったぜ」

 タカルは深い落胆と、自身の選択を悔やむ発言をした。

「お前もそう思わんか、ビークよ」

「でもこうして今、我々は地球の崩壊を目の当たりにしているんです。地球にいてもそれは避けられなかった。自分は宗教など信じませんが、終末は本当に来るんだなって…」

「まさにハルマゲドンだな。…麻原彰晃は正しかったんだ。池田大作と大川隆法は嫌いだが、麻原彰晃だけは、彼には何か特別な物があった」

「終わりを迎えるにあたってサリンの話はやめましょう。ここは潔く、辞世の句を残して自害すべきです」

「自害?馬鹿言え、俺がお前を介錯したら俺はどうやって死ねばいいんだ」

「はは、そうですね。とりあえず一句、詠みましょうか」


 空を見て

 憧れし日の

 夢男

 死ぬ日その場所

 憧憬に尽き


「素晴らしい。正岡子規も褒めてくれるだろう」

「ありがとうございます。じゃあタカルさん、どうぞ」


 死ぬ時は二人


「まさかの自由律俳句ですか」

「おう。生きている時はたった一人、人間それぞれの生き方だが死ぬ時はみんな同じだ。そしてこの宇宙ステーションにいるには俺とお前、二人。どうだうまく詠めただろ」

「いいですね」

 そして二人は死んだ。


               〜YOU DEAD〜


[コンティニューするには、ブラウザバックをするか、小説を閉じて第3話に移ってください。]








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