第2話 突然の終焉

 鳴り響くサイレンでタカルは目を覚ました。宇宙ステーションの個人居住区に緊急事態を知らせる音がけたたましく飛び交う。タカルは酸素が供給できなくなったのかと思った。しかしそうではないと気づいた。もし酸素が供給できなくなった場合、サイレンとともに酸素供給断絶を示すメッセージが個人用端末に送られてくるはずだからだ。何度も今まで酸素の供給に問題が起きる事例はあった。でも、今回は違う。何が起きたのかわからないままだ。

 服を手っ取り早く着替えて廊下に出ると、ビークが慌てた様子で走ってきた。

「大変です。地球が崩壊しました」

 ビークは冷静だった。とんでもないことを言っているのは明らかだがその目は落ち着きに満ちている。タカルは返答せず、廊下の隅にある窓から外の空間を覗いた。

 普段は眼前に広がり、輝きと美しさを放っているはずの地球は今やどす黒い塊と化していた。わずかながら元の陸地らしい部分があるが、ちらほらと光が走っては消えている。

「一体何が…」

 タカルは呆気に取られた。

核消滅ラグナロクです」

 ビークはまるでコンピューターが導き出した回答のようにそう言った。聞いたこともない単語だ。

「岩石型惑星である地球の核が突如として冷え込みだし、収縮したんです。連鎖反応でその上のマントルが崩れてきたのです。その結果、地殻変動が起き既存の海洋と大陸が無くなった。また巻き上げられた地形による瓦礫が海水に混ざり、おそらくですが…『地球だったもの』の表面では大嵐が吹き荒れているのでしょう」

「光が…表面に光がある!誰かが助けを求めているのかも!!」

「いいえ、違います」

 ビークは抑揚を付けずに答えた。

「あの光は世界中に保管されていたもしくは隠されていた、または放棄されていたウランやプルトニウムなどの放射性物質が起こした大爆発でしょう。一言で言うとあちこちで『ピカドン』が発生しているんです」

 タカルはボーッとしながら地球の崩壊を眺めていた。おそらく地球上の人類は誰も助からないだろう。愚かな愚民ども、ネアンデルタール人達、池沼、畜生、猿、タコ。彼らは自分たちの行いに起因する史上最大かつ最後の災厄から、やはり逃れられなかった。

 タカルは置いてきた家族の事を思い出した。父と母、兄と姉、弟と妹。タカルは来年春に地球に帰り、縁談をする予定があった。タカルの幼馴染は、タカルの子供を宿していたはずだ。友人、恩師、同僚。彼らの事で脳内がいっぱいになっていく。


「何をしてるんですか、タカルさん」

 突如、冷たい風のような音声が聞こえてきた。ビークが両手に手荷物を抱えて立っている。

「急いでボートに乗り込みましょう。崩壊の波はこのステーションにも届いてくる。時間がありません。遠く離れた場所へ避難するのです、そう火星へね」

 ビークの言葉に反論する余裕はなかった。持てる荷物だけ持ち、ビークとともにタカルはランディングパッドへ向かう。あそこなら宇宙ボートか、最悪でも脱出ポッドが用意されているだろう。


 

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