第4話
参堂中学校サッカー部、通称『魔界』。
近隣から悪の巣窟と恐れられるそこは不良の溜まり場と化しており、部長
何故たいして荒れているようにも見えない公立中学校であんなものの存在が許されているのかというと、不良たちのリーダーである実藤雄飛が校長その他大勢の教師の弱みを握り、学校を陰から掌握しているためらしい。なんだその漫画の設定みたいな話。
でも俺は、この荒唐無稽な情報を信じないわけにはいかなかった。実藤雄飛、通称ユーヒさんがどれほど恐ろしく底知れない人であるか、あのサッカー部のドアを初めてくぐった日に嫌というほど思い知らされたからだ。ほかの不良に指示を出していたぼさぼさ頭の怖い人、彼が悪名高いユーヒさんだった。
入学式の次の日、俺と木場は、わざわざ一年の教室にやってきた青髪の先輩に呼び出され、部室に連れて行かれてまだ顔見せが済んでいなかった先輩を紹介され、入学祝いと称して缶ビール一気飲みをさせられ、それ以来ほとんどの教師と生徒に遠巻きにされるようになった。話しかけようとすると逃げられるしやたらビクビクされるし授業では絶対にあてられないし日直も掃除当番も給食当番もはずされる。
唯一委員会決めの時には「好きな委員会選んで」と言われたけど、「やりたくないなら行かなくていいから」と露骨にサボりを推奨された。なんなんだ一体。教師ぐるみのいじめ? ていうか俺と同小のやつは俺のこと知ってるだろ? 不良なんかなる性格じゃないってわかるよな? 中学入ったばっかでこんなのありかよ。
唯一、三年の美化委員の先輩だけがこっそり話しかけてくれて、その人がユーヒさんの話を教えてくれた。あのサッカー部にいた先輩たちとは全然違う真面目そうな人で、軽薄な噂話を信じるタイプには見えなかった。
「なんか、保険の先生も関わりたくないみたいな感じで手当てしてくれなくて……」
愚痴るように言うと、先輩は苦笑した。
「あー、そうなんだよ、先生たち基本そんな態度。前にサッカー部の連中に説教したり干渉したりした先生、破滅させられたからね」
「は、破滅ですか……?」
「そう、何されたのか詳しくはわからないんだけど、一人は自殺してもう一人は逮捕された」
「えぇ!?」
俺は思わず大声を出してしまい、先輩にしーっと指を立てられた。す、すいません、と縮こまる。今は美化委員の会議中で、無駄話なんかしてちゃいけない。でもせっかくやっと貴重な情報が得られそうな機会が訪れたのだ。美化委員の活動目的とかいうなんとなく予想がつく話よりも先輩の話が聴きたい。
「マジで知らなかったんだなぁ、お前。気の毒に」
先輩は同情のこもった目で俺を見て、俺の左耳に嵌められた紅いピアスを指さした。
「それつけてる限り、まず普通の友達はできないと思え」
「と、取れないんです。いや、家でははずしてますけど……。あの、取ったら殺すってサッカー部の先輩に言われてて」
「じゃあ無理だな。あいつらの殺すはわりと本気だから」
「そうなんですか……」
「うん。教師の自殺だって本当はあいつらが殺したんじゃないかって言われてるぐらいだ。普通だったらあんなヤバい奴ら少年院にでも行ってそうなもんだけど、多分警察にもコネがある。実藤の怖いところは、どこまで影響力があるのかわからんってとこで、交番の警官にあいつから脅されてるって訴えた奴は次の日歩道橋から突き落とされて足を折った。警官から実藤に情報が流れたとしか思えない。だからみんな、どうやって実藤に逆らえばいいのかもわからない。下手なやり方じゃえげつない報復を喰らう。関わらないのが一番なんだ」
声を潜めながら先輩が教えてくれる情報の全てが衝撃的だった。
そんな恐ろしい存在と関わっちゃったのか、俺。いや、青髪の先輩はこの紅いピアスは仲間の証だって言ってた。つまり俺はもうその恐ろしい存在の一部になってしまったのだ。そりゃあ大体の同級生に避けられるよ。柄の悪い人達は逆にフレンドリーな感じで接してくるけど、慣れてないから絡まれてるような気持ちになってしまう。俺のいた小学校にはあんな荒んだ雰囲気のやつはいなかった。
「せ、先輩、俺、どうすれば……」
縋るような思いで先輩に尋ねると、先輩は腕を組んで、ううぅん、と唸り、言った。
「とりあえず逆らわないほうがいいな。あとはほら、お前元々普通の奴だろ? それならほかのもっと不良っぽい一年の方が気に入られるだろうから、お前は目立たないようにして、あれ?いたっけ?みたいな存在になれれば、まぁ……もしかしたら自然に抜けられるかも……」
言いながらもあまり良い案だとは思えないようで、渋い顔をしている。それでも絶望的な状況に追い込まれた俺にとっては一筋の希望の光だった。
「ありがとうございます、先輩。そういう感じになれるように頑張ります」
頭を下げると、強く生きろよ、と先輩は励ますように俺の肩を叩いて言ってくれた。
美化委員の話し合いはいつのまにか終わっていたが、結局俺は何の係も割り当てられなかった。
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