第19話 美月の奇妙な物語
私は彼のトーク画面を開き、文字を打ち込んでいく。
(おはようございます。悠真君)
挨拶文を送ると、すぐに既読マークがついた。
私は緊張しながらも、文章を書いていく。
(悠真君。今日のデートのことなんだけど、10時に駅で待ち合わせでいいかな?)
『分かりました』
悠真君からはすぐに返信が来た。
私はほっとして息をつく。
『ありがとう。それでね、服装だけど、スカートにしようと思っているの。どうかな?』
『似合っ
「待って」
思わず声を出してしまった。
どうして?
どうして返事が途中で止まってしまったのだろう。
分からない。
不安になってくる。
「どうしたの?」というお母さんの声が聞こえてきた。
私は慌てて「なんでもない」と答えた。
それから、数分後。
「ごめんなさい。ちょっとトイレに行ってきます」
私はそう言って部屋を出た。
そして、急いでリビングへ向かう。
私はソファーに座っているお父さんに近寄る。
すると、私の様子に気付いたのか、お父さんは不思議そうに私を見てくる。
そんな彼に私は言う。
もしかしたら、私はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
その可能性が出てきたから。
「ねえ、父さん。さっき私が送ったメッセージを見てみて」
「ん、分かった。……あれ、これって」
「うん。そのメッセージは悠真君から届いたものなんだ」
「えぇっ!?」
「やっぱりそうだよね。……ごめんね、父さん。私、悠真君のこと、異性として好きになっちゃった」
私は申し訳なさを感じながらも、自分の考えが間違っていなかったことに安心する。
そして、お父さんに悠真君のことが好きだということを改めて伝えた。
すると、お父さんは驚きつつも優しい表情を浮かべる。
そして、ゆっくりと口を開く。
それは、私が想像していなかった言葉だった。
私は、目の前で起きている出来事が信じられなかった。
悠真君は今、見知らぬ女の子とキスをしている。
それも、彼女の方から強引にしているように見える。
悠真君の表情はとても幸せそうに見える。
彼女もまた、同じような顔をして悠真君の唇に吸い付いている。
悠真君のことが大好きなのに、大好きな彼が他の女の人とキスをしている光景を目の当たりにして、胸が締め付けられるように痛む。
私は、いつの間にかその場を離れ、
「……うぅっ」
涙を流していた。
どうしてこんなことになっているのだろうか。
「悠真君、好き、好きぃ……」
あの子は一体誰なんだろう。
悠真君は彼女と付き合っているのかしら。
でも、あんなに嬉しそうな顔を見る限り、彼女は彼氏ではないと思う。
悠真君はああいう子がタイプなのかな。可愛い子だと思うけど……。
私は、悠真君と初めて出会ったときのことを思い出す。
◆ 高校に入学したばかりの頃。
私は、クラス表を確認して教室に向かっていた。そのときに偶然、悠真君を見つけたのだ。
悠真君の顔を見た瞬間、私の心臓はドクンと跳ねた。今までに感じたことのないような雰囲気を感じたからだ。
「……」
悠真君はどこか寂しげな様子だった。
だから、放っておけなくて、私は悠真君に声をかけることにした。
「あ、あの」
「はい?」
「わ、私、1年2組の美月っていうの」
「1年……」
「そ、そう」
「そうですか」
悠真君はそれだけを言うと、再び歩き始めた。
「あっ」
私は、去っていく悠真君を追いかけようとしたけれど――
――キーンコーンカーンコーン 始業式の開始を知らせるチャイムが鳴った。
私は仕方なく、自分の教室に向かうことにした。
1限目の授業が終わったあと、私は勇気を出して、また悠真君に話しかけに行った。
でも、悠真君は私のことをまったく覚えていなかったようで、冷たい態度を取られた。
「すみませんが、どちら様でしょうか?」
「えっ」
「人違いでは」
悠真君は私と話す気がないようだ。
それでも私は諦めずに、悠真君と話をしようとした。
「あの!」
「……」
「えっと、私は同じクラスの美月です! 悠真君とは友達になりたいと思っています! よろしくお願いします!」
「……はぁ」
悠真君はため息をつくと、そのまま席を離れていってしまった。
結局、私は悠真君とまともに話せないまま、昼休みを迎えた。
私は、友達と一緒にお弁当を食べようと、いつも一緒に過ごしているグループのところへ向かった。
そして、お弁当箱を取り出したときだ。
後ろから誰かの視線を感じる。振り返ると、そこには悠真君がいた。
私はびっくりして固まってしまう。
すると、悠真君の方から近づいてきた。
「こんにちは、美月さん」
「こ、こんにちは」
「俺は悠真といいます。これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「う、うんっ」
「良かった。じゃあ、またね」
そう言うと、悠真君は
「失礼しました」
と言って、去っていった。
私は、その日の夜、ベッドの上で考えていた。
どうして悠真君は、急に話し掛けてきたんだろう。
それに、どうして私のことを知っているのかな。
「んー」
私は、しばらく悩んだものの、答えは出てこなかった。
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