第17話 途中何か出てきますが、イチャつき優先です。
「楽しかったですね」
「そうだね。また行こうね」
「はい。……あ、あの。美月さん」
「ん?」
首を傾げながら見上げてくる美月さんの顔はほんのり赤くなっているように見える。
「手を握ってもいいですか?」
「……はい」
美月さんは小さく返事をして、左手をスッと差し出してきた。
彼女の右手を握ると、美月さんはぎゅっと握り返してくれる。
「えへっ」
美月さんは頬を緩ませている。
「今日は本当にありがとうございました。とても楽しい休日になりました」
「私も同じ気持ちだよ。こちらこそ、付き合ってくれてありがとね」
「いえいえ」
「あと、昨日は泊めてくれて嬉しかったよ。……また泊まりに行ってもいいかな?」
上目遣いで訊いてくる美月さん。
昨日の夜、一緒に寝たことを思い出してしまう。
ベッドの中で抱き締められた時のことを思い出すと、体が熱くなる。
俺は思わず目を逸らしてしまう。
すると、美月さんはクスリと笑う。
「……お姉ちゃんとしては、弟くんの反応を見るためにも、これからも泊まりたいなって思うけど」
「か、考えときます」
「分かった。楽しみにしているよ。じゃあ、帰ろうか」
「はい」
「……ねえ、悠真君」
「何でしょうか?」
「今度の日曜日も、こうして手を繋いで帰りませんか?」
「いいですよ」
「やったぁ」
美月さんは嬉しそうに笑い、繋いだ手にきゅっと力を入れた。
俺と美月さんは電車に乗り込む。
土曜日の夜ということもあり、車内はかなり空いていた。
2人並んで座ることが出来た。
最寄り駅に着くまで20分ほどかかる。
その間、俺達はずっと話していた。
主に学校でのことだが、話は尽きない。
そして、あっという間に最寄り駅に着いた。俺達は駅のホームに降り立つ。
「悠真君、今日は私の家に来てくれないかな? 晩ご飯を作ってあげるよ」
「分かりました」
「よし。決まりだね。それじゃ、行こっか」
「はい」
俺は美月さんと手を繋ぎ、歩き始めた。
「……あの、美月さん」
「どうしたの?」
「その……手を繋ぐのは恥ずかしくありませんか? 周りには人もいますし」
「ううん、全然」
美月さんは笑顔で言う。
「悠真君と恋人同士になって、悠真君に甘えたくなったんだよね。だから、悠真君のことが大好きだってアピールするためにも、こうしたくて」
そう言ってくれるのは嬉しい。
嬉しいのだが……俺の方が美月さんのことで頭がいっぱいになっている気がする。
美月さんと一緒にいるだけでドキドキして、落ち着かない。
「そ、そうなんですね」
「うん!……悠真君は私に手を繋ぐの嫌だったりする?」
「そんなことはないです」
「良かった!」
美月さんは本当に幸せそうで可愛らしい笑みを浮かべた。
「それに、こうしていると悠真君が可愛いから」
「……ど、どういう意味ですか」
「ふふっ。そのままの意味だよ」
美月さんはニヤッとした表情を見せる。
「さっきも言ったけど、私は悠真君が大好きだから、悠真君がどんな反応をするのか見たかったの。そうしたら、予想以上に照れてくれた。それが嬉しくて」
美月さんはとても楽しげな様子で話す。
……俺のことをからかって遊んでいたんだな。
でも、美月さんが楽しんでくれたならそれでいいや。
俺と美月さんは再び歩き始める。
「悠真君は料理できるの?」
「一通りはできますよ」
「すごいね! 今度、私にも教えてほしいかも」
「はい。もちろんです」
「ありがとう。約束だよ?」
「はい」
美月さんとの会話が弾む。
「ただいまー」
「お邪魔します」
美月さんの家に着き、玄関に入る。
靴を脱いでリビングに行くと、そこには誰もいなかった。
「あれ?」
美月さんは不思議そうに首を傾げる。
すると、リビングの隣にある和室の方からドタドタと足音が聞こえてきた。
誰かが出てくる気配を感じる。
しかし、そこから出てきたのは――。
黒いワンピースを着た黒髪の少女だった。
少女は美月さんと同じぐらい背が高く、中学生とは思えないほど大人びている。
綺麗というよりもかわいいと言った方が適切な顔立ちをしており、どこか色っぽい雰囲気がある。
肩くらいの長さで切り揃えられた艶のあるストレートヘアは、美月さんと同じようにふんわりとしている。
この子が美月さんの妹である亜紀ちゃんか。以前、写真を見せてもらっていたけれど、実際に見るとやはり違う。
「……え?」
「……へ?」
美月さんは目を丸くしながら、呆然と呟く。そして、すぐに頬を赤く染めていく。
俺は今の状況が全く理解できず、固まってしまった。
「……」
「……」
俺と美月さんはお互いに何も言わず、無言のまま向かい合っている。
美月さんは顔を真っ赤にして俯いている。俺も同じような状態だ。
俺達がいるのは、美月さんの家のリビングのソファーの上。目の前には美月さんの姿があり、その後ろには美月さんの部屋で見たぬいぐるみがあった。
今、俺達が何をしているかというと、美月さんに抱きしめられているのだ。それも強くではなく、優しく包み込むように。
どうしてこのような状況になったのか。それは5分ほど前に遡る。
*
***
俺と美月さんはお互いの顔を見つめ合いながら、動けずにいた。
「…………」
「…………」
俺と美月さんは何も喋らず、見つめ合うだけ。何だか気まずい。
早く何か話さないと。
そう思っていると、美月さんはゆっくりと右手を上げて、俺の頭に手を添える。
そして、撫で始めた。
美月さんの突然の行動に驚いてしまい、反応が遅れてしまう。
俺はされるがままになっていたが、少し経って我に返り、慌てて口を開く。
悠真 side out 美月 side
悠真君と目が合った瞬間、恥ずかしさが込み上げてきて、思わず悠真君に抱きついていた。
悠真君の温もりを感じたり、悠真君の匂いに包まれたりして、とても幸せな気分になる。
もっと悠真君のことが好きになってしまう。
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